The APOLLO

ゴキゲン女子と一緒に銀座で遊ぶ土曜日。
渋谷、青山、原宿がいつもの遊び場という彼女にとって銀座は東京にあって外国みたいな場所のひとつで、だから思い切り外国みたいな場所を選んだ。
東急プラザの「the APOLLO」という店。
ギリシャ料理をモダンに解釈、再構築した料理が特徴で、オーストラリアに本店がある。ほぼオーストラリアの店と同じ仕組みで営業されていて、それが日本のレストランの今の傾向とまるで違ってとても外国。日本の飲食店を見て感じる閉塞感を、スコンと抜いてみせてくれるところがオキニイリ。
キッチン、バーカウンターにデザートバー、そして客席とすべてが仕切りや壁をもたない見通しのよいひとつの空間に並べられてる。 プライバシーを好むお客様の言いなりに小さな空間を組み合わせる店作りをする最近の日本のレストランの真逆の空間設計に、気持ちがのびのびしてくるステキ。

個室を好む人っておそらく、他の人に見られたくない秘密のあるか後ろめたい事情があるか。
他のお客様がどこでどう楽しんでるかがわからぬ場所はレストランではないんだろうなぁ…。
レストランというは場所はみんなでたのしく食事する場所。
互いのシアワセを融通しあって、お店全体の空気をシアワセにしていくことでみんながシアワセになる場所なんだと思う。
この店ではみんな背筋をしゃんと伸ばしてニコニコしながら店の空気をたのしんでいる。ここが銀座という特別な場所だからということもあるかもしれないけれどやっぱりココのこういう空間設計、雰囲気があればこそ…、って思ったりする。ランチコースを選んで食べる。
魅力的なアラカルトがたくさんメニューに用意されてていつも悩む。でも食べたいモノはコースでほとんど揃ってしまう。だから結局コースをたのむ。

見方を買えると、お店の人が食べてもらいたい名物料理だけでコースが構成されている…、というコトでもあって、これが「ワザワザ行く価値のある」レストランのメニューの特徴。
例えばここでコースの最初にやってくるのが窯焼きのパン。ハーブをまとわせこんがり焼いた香り高いさっくりとした軽い仕上がり。それに緑豆とレーズン、オリーブオイルのピュレをディップして味わうココを代表する料理のひとつ。
小さなピザボックスに入ってきて、蓋を開けるとふわりと香りが漂う趣向も、あぁ、これからいつものココの時間がはじまるんだってワクワクしながらホッとする。
このワクワクとホッとする気持ちが一緒にやってくる店こそが、おなじみになるにふさわしい店の条件。

トマトときゅうりにハーブとフェタチーズ、オリーブオイルと柑橘のジュースで味が整うサラダもいつもくるたび感心する。
作り方が容易に想像できるくらいに単純で、素材それぞれの持ち味だけで味が整う。しかも複雑な味がするのです。きゅうりの太さにみずみずしさ、トマトの甘さはいつも揺るがず、フェタチーズを崩して他の素材にまぶして食べるという、調理に加担するような食べ方もまた面白い。

ちなみにこの店の料理はすべてシェアポーション。
コースも当然、人数分をひと皿に盛りあわせ、お客様がそれを自らサーブし合う。
仲良き食卓はこういう食卓。

豚肩ロースのローストが今日えらんだメインディッシュ。
ギリシャのスパイス、ハーブをたっぷりまぶして表面こんがり、切り分けた断面はロゼという肉感的なる仕上がりで、レッドキャベツやエンダイブのグリル、ヘーゼルナッツのピュレやハーブと一緒にキレイに盛り付けられる。
それらは付け合せのようであり、同時にソースのおうでもあって、例えばエンダイブの苦味は豚の甘みを引き出しレッドキャベツの酸味は旨味に輪郭つける。
ヘーゼルナッツのなめらかなピュレの食感は豚の脂のとろみを真似る。
口を最後の調理器具にして、素材同士の組み合わせで自分の好みの味を見つけながらたのしむというのがオモシロイ。

豚肉をトロトロ、ふわふわに仕上げるのでなくザクザク歯切れる食感を活かして仕上げているのもなんだか新鮮。噛めば噛むほど肉の旨みが広がっていく。皮をパリッと仕上げたローストポテトも顎をガツンと叩いて崩れる。
喰らってる…、って感じがするのがいい感じ。お腹もほどよく満たされる。

デザートもシェアしてたのしむ。3種類用意されてるモノの中からレモンケーキを選んでたのむ。
何種類かのお菓子をひとつに盛り合わせれば様になるからと、出来合いケーキを何種類か皿に並べてよしとする店が多いけど、ひとつひとつに価値のないものをいくつ組み合わせても価値はゼロ。
こうしてたった一種類ではあるけれど、創意工夫と丁寧さをもち作られたものはやっぱりおいしい。器の底にレモンカード、焼いて砕いたクッキー生地に焼いたメレンゲを並べてそれらを一緒に食べる。レモンカードは体がふるえるほどに酸っぱく、一方メレンゲはズッシリ甘い。それを一緒に食べると口の中でまとまりおいしいお菓子になっていく。ギリシャのハーブティーをお供におしゃべり続けて気持ちも満ちた。こういうお店がもっと増えればいいなと思う。オキニイリ。

 

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コメント

  1. 高坂

    サカキ様
    「個室を好む人は他の人に見られたくない秘密があるか、後ろめたいことがあるか」
    そのネガティブな二択ですか…
    飲食店を利用するお客様に対して、あまりにも想像力がないのではと感じました。

    • サカキシンイチロウ

      高坂さん
      たしかに二択ではないとは思います。
      ただ、最近のチェーン店やダイニング系のレストランで安直に個室化が進んでいることをちょっと憂えて、筆が滑ってしまいました。
      ボクも母などと一緒に食事するときに、今日は心置きなくおしゃべりしましょうと個室を選ぶこともあります。ご指摘謙虚に受け止めます。ありがとうございます。

  2. オリビア

    以前のサカキさんの記事を読んで憧れ続け、ついに先日夫の誕生日祝いにランチに行きました。お店に足を踏み入れてから出るまで、確かに背筋がシャンと伸びて適度な緊張感の中楽しく過ごすことができました。ギリシャ料理はなじみが薄いですが、どれもとてもおいしかったです。ロットチェントを少し思い出しました。レモンケーキに誕生日プレートも乗せていただいて、親しみやすくも気持ちのいいサービスをしていただきました。また特別な日に行こうと思います!

    • サカキシンイチロウ

      オリビアさん
      ロットチェントさん…。
      あそこもシシリア料理という日本ではあまりメジャーではない料理を、丁寧に、しかもわかりやすく解釈してたのしませてくれますよね。
      ギリシャ料理といえば重たくて、古臭い料理のようにずっと思い込まれていてそれをここまで軽快にアレンジできるってスゴいことだなぁ…って思います。

  3. かっち(山中繭子)

    空気をぶった切って申し訳ないのですが、ギリシャ料理を存じ上げないので、初めての図書館に入ったようにわくわくしながら拝見していました…。
    (本当に外食の経験がなくて、一人で入る事が出来るのがサイゼくらいで。松屋も入ったことありませんし)
    ちゃんと経済力がついたときに、大事な人たちを連れて行くに値するお店に、私には見えます。
    人生のの励みになります。ありがとうございます!私の友達一同は、全てを楽しんでくれそう。観察力が素敵な人ばかりなので。
    (落ちがなくて申し訳ありません←こういうとこ気にするのが関西人ですかね)

    • サカキシンイチロウ

      かっち(山中繭子)さん
      このお店の料理がギリシャ料理なのか?というと、正直ボクにも判断がつきかねます。ギリシャの人に聞いてみなくちゃわからないコトになっちゃうんだろうけれど、おいしくて、しかもなによりたのしいことには間違いない。
      飲食店ってそれでいいんだろうと思います。
      美食家とか、評論が好きな人にとっての飲食店と、ゴキゲンな人たちにとっての飲食店って違って当然ですものね。

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