Modern Greek APOLLO

南の方から友人が来て、昼を一緒にたのしみましょう…、とアポロを選ぶ。
数寄屋橋交差点の角にある銀座プラザの最上階。
鳴り物入りの商業ビルも2年も経てば日曜のランチ時というのにガラガラで、最上階のレストランフロアでにぎやかなのはこの店一軒。
京都の老舗料亭のお手軽版のお店に至っては、日曜というのにお客様はゼロ。ノーゲスト。哀れでござる。
おそらくこのビル自体が失敗。にもかかわらずこれからこういう施設が次々東京にはできるんでしょう。
立地はいい。ハードウェアも豪華。誰に聞いてもわかる場所。お店のロケーションとしては悪くない。けれど「どこにある」ということでお客の気持ちは惹けぬ時代に、大切なのはお店の実力。当たり前のことなんだけど、その当たり前に気づかぬ経営者がいまだにたくさんいるというのにびっくりします。

ちなみにこの店。
オーストラリアからやってきたモダンギリシャ料理の店です。
とっつきづらい。
しかも今の日本の飲食店の流れにことごとく逆行するような営業スタイル。
大箱。
クラブ系の音。
ほぼワンメニュー。
しかもテーブルを囲んだ全員が同じメニューをシェアする大皿料理。これがオージースタイルだと言われればしょうがないけど、お客様一人ひとりのわがままを聞くことがいいサービスと思い込んでくるとビックリしちゃう。
でも大人気。ボクは何度もこの店を親密でカジュアルな会食に使っているけど、一度も外したことがない。好きだし重宝するお店。ソフトドリンクのグラスにささったストローは土に還っていく紙製のモノ。こういうところがオージーっぽい。

まず前菜にギリシャのオリーブ。サイズ、種類違いが何粒もお皿に入り唐辛子油を注がれてくる。食べて残った種用に空き缶一個。それがキャビアの空き缶で、中身も一緒だったら良かったのにね…、って言って笑った。小さなピザボックスに手焼きのギリシャパン。フッカリしていてハーブ、スパイスの香りが気持ちをビュンと地中海へと連れていく。
ガラスの瓶に入ったパンのお供がタラモ。酸味鮮やかなギリシャヨーグルトにタラコの魚卵。いくらを乗せただけの簡単な料理なのにパンとの相性抜群で、これほど健康的を装った魚卵料理って他にないよな…、って食べる。本格的に腹が減る。

開店直後はのんびりとした雰囲気だった。
それが着々とお客様がやってきて、にぎやかになる。
その客層のおもしろきコト。
ファミリー客に女性同士のグループ客。カップル客と種々雑多。ただ「すごくおしゃれ」な人はいない。みんなくつろぎ、ちょっとおしゃれな普段着感覚。
気軽な感じが許される、こういうムードが今の銀座のムードなんでしょう。
もしこの店が六本木とかにあったらおそらく半分近くが欧米系。
中目黒にあったら文化系で癖の強めのお洒落さんが集まるんでしょう。ココのムードがボクは好き(笑)。

ココの名物料理のサガナキチーズがやってくる。
山羊のチーズを塊のままこんがり焼いてハーブと蜂蜜をかけただけ。
焼いたスキレットの上で蜂蜜がフツフツ細かく沸騰するのが目においしい。ただチーズはすぐに硬くなるので切り分け急いで食べる。
塩味、甘み、チーズの旨味に蜂蜜の軽い渋み。甘じょっぱくって熱々で、大人こどもの好物的な味がたのしい。
チーズ自体は弾力があって決してとろけず、けれど大量の蜂蜜がかわりにとろけてそれでチーズがとろけているかのように感じる。おもしろい。

フェタチーズをのせたサラダは素朴でシンプル。ひと口大に切ったきゅうりにトマト、レッドオニオン、紅芯大根。モロッコインゲンを彩りにしてそれらは軽くオリーブオイルでドレスしてライムを絞っているだけのもの。
上のフェタチーズをスプーンで潰して混ぜ食べる。
塩味の強いチーズの塩味と旨味と風味で味が整い、口の中で大きな野菜がバキバキ壊れる。そのにぎやかさとみずみずしさがオゴチソウ。調味料でなく素材同士の持ち味で味が整うというのもたのしい。オキニイリ。

この店の特徴のひとつが「料理提供が早い」というコト。
メニュー構成が単純だから。
みんなでシェアする大皿ポーション。だから盛り付けなんかに時間がそんなにかからない。
そんな単純なメニューを、開業からずっと変わらず続けているから厨房のスタッフはすべての調理に熟練してる。
早くて当然。

仕事柄、飲食店の人から「季節商品や新商品を導入するタイミング」はどう考えればいいんでしょう…、って聞かれることがある。
飲食店において、定期的にメニューを変えるということは、飽きられないようにするために必要なことと言われてもいる。
でもメニューを豊富にすれば本当に飽きられないのか。
新商品を導入すれば、しばらく来なかったお客様を取り返すことができるのか。日常的に利用する手軽な店ならそれも大切。でも特別な機会に選ばれる店ならずっと変わらないことがむしろ飽きられないコトなのかもしれず、そういう意味でこの店はいい。
しかもみんなが無理せずに、自然なペースで料理ができてサービスもする。悪くないなぁ…、ってしみじみ思う。メインディッシュが到着です。

ラムショルダーに香辛料をまとわせてオーブンの中でじっくり時間をかけて調理したこれもココの人気の料理。かなりの割合の人がこれをたのんでくれるとわかっているから時間をかけて事前調理ができるという訳。
クミンシードの香りが切なく、肉の上にはキラキラ岩塩。スプーンの背中でちょっと力を入れて押す。するとはらりと繊維がほぐれて壊れ、潰れる。ヨーグルトのソースと一緒に食べるとしっとり。口の中が肉肉しくなる。
コーンサラダを付け合わせにする。生のとうもろこしを大きく削ぎ切り、ハーブ野菜やアルファルファと一緒にあわせる。酸味がくっきりしたドレッシングがとうもろこしの甘みを引き立て、口の中もみずみずしくなる。健康的に溺れるお昼。

そしてデザート。これもみんなでシェアして食べる。
レモンパイを選んで食べた。
ボウルの中は、どこか見知らぬ惑星に多肉植物が群生しているような景色。
多肉植物的物体は、絞り出したメレンゲをこんがり焼いたモノ。地面は焼いて砕いたパイ生地で、地表の下にはレモンカスタード。
本来のレモンパイをひっくり返したような仕上がり。スプーンで食べる。
そう言えばオーストラリアの人たちはケーキ、デザートをスプーンで食べることが多いように記憶する。チーズケーキもピーカンパイも、ラミントンもブラウニーもクリームパフも大きく作ってスプーンでパクリ。タップリのクリームも崩れやすい生地もトッピングもキレイに食べることができるのが合理的。
ちなみにこのレモンパイ。酸っぱく甘く、ザクザクしててしかもなめらか。アイスティーと一緒に食べてお腹においしい蓋をした。

 

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コメント

  1. きょうちゃん

    サカキさんこんにちは
    面白いです!行ってみたい!
    ラムが美味しそう♬

    家で作るごはんにも大きなヒントになります。
    “ちゃんとした形”に作る過程でくたびれてしまっては
    本末転倒。この頃、エネルギーの無駄遣いをしない料理や食生活を模索しているところです。

    • サカキシンイチロウ サカキシンイチロウ

      きょうちゃんさん
      素材の持ち味を引き出せば料理になるんだ…、料理にしようとすればするほど、たのしさから遠ざかっていく料理に対して、素直で目からウロコの料理の数々。
      たのしいお店です。
      作るヒント以上jに、楽しむヒントともてなすヒントにあふれていて、また行きたくなるお店のひとつです。

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