HITOSHINAYAというビジネスモデル

HITOSHINAYAというビジネスモデル

aa hitoshinaya朝を羽田ではじめる水曜。
旅をおいしい和食ではじめましょう…、と朝ご飯を「HITOSHINAYA」。
去年の後半にはじめて出会って、それまでココを知らなかったことをくやしく思ったお店であります。

まずしつらえが良い。
ターミナルビルの中にガラスの箱を仕立てて、中に一軒、日本家屋をあらたに建てた。静かな風情で清楚にみえて、なのに一体「何事ぞ!」と、思わず近づきその正体を見極めたくなる。そんなステキにウットリします。
厨房をコの字に囲むカウンターだけ。調理の手元が見通せるドラマティックな空間の中、テキパキ、しかし整然と料理が次々出来上がっていくさま見事で、再びウットリ。
メニューの数が極限にまでしぼりこまれて、しかも下ごしらえがしっかりできてる。だから満席になってもバタバタするようなことがないから見ていて気持ちいい。
今日はココの一等席。厨房正面のカウンターのど真ん中の席をもらって座る。目の前にあるのは大きな竈に羽釜。奥には魚を焼く焼台があり、右手手前には出汁が収まる鍋がある。

能舞台にて舞が一差しまわれるような、優雅な姿で出汁が茶碗に注がれる。

a hitoshina zena dasi「お茶の代わりの出汁でございます」。
そう言いながら、そっと茶碗が差し出されます。
「出汁がおいしい」は日本料理のおいて「料理の基本ができている」というコトで、最初に出汁をふるまう。
ステキだなぁ…、と思ったわけです。
しかも朝のお腹にやさしい風味の出汁がそろそろ、流れ込んできて温める。
粋だなぁ…、と思ってそれで、ココが好きになったのだけど、「お茶の代わり」という一言を添えて出すというのに、今朝、はじめて気づいた。
だからお茶は出てこない。出汁の他にはお水がグラスでやってくるだけ。
お茶のコストは案外高い。なのに日本じゃ無料が当然。感謝されない存在だけど、お茶の代わりに出汁をだす。ありがたいなぁと感謝され、ちょっと余分にお代をちょうだいできたりもする。

感謝されないサービスをするのはとても勿体無い。
売上や感謝を産まない努力というのは、人をしあわせにすることのない寂しい努力。
寂しい努力を明るい努力にさせるため、工夫をしなくちゃいけないんだ…、とハッと気付いた。お勉強!

料理は2種類。お粥がメインの軽いお膳と、鮭がメインの御膳でそれが1200円。
朝の食卓にあってほしいものはすべてある。余計なモノは一切なくて、一つひとつがシッカリしてる。これでいいんだと思いもします。ご飯の飯器も汁の入った汁椀も、どちらも漆器。蓋がなされてやってくる。それをそっと手にして開ける。その瞬間に景色が変わり、湯気と一緒に美味しい香りがやってくる。
食器の蓋は風呂桶の蓋と同じで必要のないものだから、なくてもいいんだという人がいる。
食べてしまえばみな同じだから、盛り付けなんかに気を使わなくてもいいんだよ…、っていうのと同じ。風情も味のひとつですのに、もったいない。

a sozai細かなところにも、おいしい工夫。
緑の葉っぱに千切りにした紅芯大根。そこに燻製の小柱散らかり、ドレッシングの代わりに出汁風味の酢。
色鮮やかでうつくしく、燻製にした小柱の香りとクニュッと奥歯を沈める食感たのしく、体が潤う。
出汁をたっぷり吸い込んだ菜っ葉のおひたし。
豆腐の上には出汁のジュレ。
何を食べても出汁の旨味が広がって、味の印象は異なれど基本の風味が同じで、だからホッとする。
統一感もとれるのですね。
ひとつの料理を片付けないと、次の料理に向かっていけない西洋料理のコースのような食べ方ならば、料理同士に共通性がなくていい。
けれど日本料理。特にお膳、弁当のようにいくつも料理が同時に並ぶ食べ方のとき。口の中で異なる料理が混じりあうようなこともある。料理同士に共通項がないと気持ちが不安になって、おいしく感じぬことがある。
だから出汁。出汁が舞台を作ってくれて、そこで素材や調味料が個性を発揮するから安心して食べられる。そんな日本の料理のステキを味わい食べる。

a hitoshina ya鮭のうしろには玉子焼き。
甘くてしっとりした出汁巻き玉子で、感心したのがサイドに添えた大根おろし。
お酢で軽くあらったところにちりめん山椒をまぜている。
口がスッキリ洗われて、しかもご飯をおいしくさせる良きあしらい。

鮭は尾っぽに近いところで、脂少なめ、ぎっしり筋肉質なところ。
皮の名残に煙がついて、口に入れると香ばしい。しっとりしていて、塩の旨味がなんとも鮮やか。
炊きたてご飯と一緒にハフッ。口いっぱいに広がる香り。お米の一粒ひとつぶが、転がるような騒々しさにニッコリします。
小松菜となめこのはいった味噌汁もほっこりおいしい。ポッテリとした風味豊かな強めの味噌で、にもかかわらず出汁の風味が揺るぎない。おいしい出汁は何を混ぜても出汁の旨みをなくさないんだと、感心します。
お腹もやさしく満たされて、そろりそろりとボディーチェックに向かいましょうかと移動する。

ところでこの店、あんなふうとか、こんなふうに応用したらオモシロイかも…。つまり出汁を飲ませるビジネスモデル。いいじゃないかと思ったりもする。それが本日一番の、朝の勉強。アリガタシ。

 

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コメント

  1. りょー

    ご無沙汰してます。愉しく読ませていただいてます(^-^)

    出汁の講習を先日、ニンベンさんで受けてきました。
    素晴らしい鰹節と昆布でシャンパン色の一番だしを戴いて、改めて、日本人だなあ、と実感しました。
    ヒトシナヤさんは、日に何度出汁をひくのかなあ、と思いました。
    機会があったら、伺ってみたいです

    • サカキシンイチロウ

      りょーさん。
      鮮度が命の出汁ですものね。
      簡単に作れるものなのに、これほど複雑でおいしい出汁ってすごいなぁ…、って思います。
      今度言ったら、どのくらい持たせるのか聞いてみようと思います。

  2. おもち

    ひとしなやさん。
    以前羽田に行った時、素敵だけれどちょっと異色の設えに、なんだろうこのお店?朝ごはん?
    …お昼過ぎ、ガッツリ空腹だった私は、もうちょっとボリュームあるのが食べたいなとスルーしてしまったのですよ!
    こちらのブログで記事を見てから大後悔。
    次、羽田に行ったら絶対行きたいお店のひとつです。
    わざわざ行ってもいいんですけど。同じ区内ですし、車ならすぐですし。
    近くて遠い羽田でした(笑)

    • サカキシンイチロウ

      おもちさん。
      わざわざ行くとちょっと肩透かしかもしれません。
      あまりに普通で、けれど普通のこともこんなに丁寧に作るとすばらしい料理になるんだ…、って感じのお店ですから。
      ご飯お替わり自由。
      ボクの斜め前に座った女性は2回、お替わりされてました。

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