AZUR et Masa UEKI

昨日、開業したばかりの新たなメゾン「アズール・エ・マサウエキ」にやってくる。
冒険的なフランス料理の名手とナパのワインの出会いがテーマ。場所は西麻布の裏通りという個性的においしい店が並ぶエリア。
店に入るとまずラウンジを兼ねたウェイティングスペース。左手にキッチンをのぞみながらテーブルに座るとどこのテーブルを選んでも、厨房の様子を感じるほどよい距離感。
真っ白なテーブルクロスがひかれたテーブルにキャンドル、プレイスプレイトにメニューが置かれ、いらっしゃいませと分厚いおしぼり。ローズマリーの香りをまとって、気持ちをスキッと爽やかにする。メニューを見ると、謎めいた料理の名前がズラリとならび、お腹を鳴らせる。

アミューズグールがやってきます。
まずは鉢物。
料理が入った「鉢」の鉢物じゃなく、盆栽の鉢。
木の枝に小さなトマトが貼り付いている。
飴でコーティングしたトマトで、指を添えるとポロリととれる。
噛むとコリッと飴が砕けて、プシュッとトマトが潰れて中からラタトゥイユがトロンと飛び出してくる。

フランス料理のお店だとばかり思ってやってきた。テーブルクロスが眩しくて、しかもソムリエ、メートルと黒服をまとった人がキビキビ働く。
その緊張が「指でつまんで食べる」提案で、途端にやわらぐ。

「幸いなる出会い」という小さな前菜の盛り合わせ。
これもどれもが指でつまんで食べることができる。なるほど、それでまずおしぼりが手渡されたのでありましょう。小さなシューの中にはカニのクリーム和えが詰められていて、ふっくらやわらか。蒸した鶏肉と薄切りにしたカリフラワーをクミンシードの風味で和えたエキゾチックなサラダ風。
薄切りにしたマグロをミルフィーユ状にしてあん肝と一緒に食べる一品は、口の中でカルパッチョができてくようなオモシロサ。

「玉響」という料理が続く。

何がやってくるのかと思うとなんと分厚い椎茸。
「のとてまり」という、石川県が今、イチオシのブランド椎茸。
そういえば、伊勢丹の六雁さんのポップアップでもこの椎茸が一押し食材になっていました…、っていうとなんと。
六雁のシェフとココのシェフはいいライバルで切磋琢磨を互いにしてるというではないの。
料理の世界はつながっている。

で、この椎茸をどう料理しているのかというと、ただソテしてドライ醤油で味わう趣向。
ナイフを当てるとスパッとあっけないほどキレイに切れて、断面分厚くみずみずしい。椎茸ジュースがほとばしりでて口の中を旨みが潤す。おいしい素材は素直にそのままと、臨機応変がいい感じ。しかも不思議とスパークリングワインに焼いた椎茸がピッタリあってビックリもする。
そろそろ本格的なシェフの世界に突入します。

「甘美なる憂鬱」という料理。脚だかのお皿の奥に茹でた大きな大正エビがドーンッと置かれる。手前のあるのは、はっさくの上にキャラメライズしたフォアグラのせて、そば粉のクレープ、カカオのムースが積み重なったモノ。
どれもそれぞれおいしい素材。けれど絶対、一緒に合わせて食べようとは思わぬ素材の組み合わせ。どう食べようか…、それで憂鬱になっちゃうから「完備なる憂鬱」と名前がついてる。それぞれをバラバラに解体し、ちょっとずつ全部を一緒に口に放り込む。
あらあら不思議。甘みに酸味、辛味に塩味、それから苦味と味の要素の五味がもれなく口に広がる。
最初はフォアグラがトロンととろけて、そば粉クレープがネットリ粘る。ムチュンと弾力たのしいエビに、プシュッとはっさくはみずみずしい。味だけじゃなく食感もすべてのモノが揃って口に散らかるたのしさ。一瞬にして憂鬱が幸福感に変わってニッコリ。

「枯山水」がやってくる。ガラスの箱の中に枯山水がしつらえられてて、ガラスの蓋の上に稚鮎のフリット。
ベリーのソースが彩り添えている。
ドライアイスに水を注いで、川を稚鮎が泳ぐ景色を装うステキ。
パリッと歯切れて、苦味が口に広がっていく。

フリットの上にはパルミジャーノが風味を添えて、だから和食のようにみえるけど西洋料理の味がする。
サクッと揚がったふきのとうも苦味おいしく、食べるとお腹が空いていく。この料理に限らず、ココの料理は日本料理のようであり、中国料理のようでもあってなのにやはりフランス料理。
料理の世界を突き詰めて、突き抜けた先には普遍的なおいしいモノが待っているのかもしれないなぁ…、って思ったりした。

なんと中国風のお茶の道具がやってきます。竹を斜に切ったような形の湯呑みにお湯を注いであっためる。聞香杯の作法のようで、何が一体はじまるんだろう…、ってワクワクします。
温まった湯呑みに、鉄瓶の中の液体をサラサラ注ぐ。
ブラウンマッシュルームのコンソメスープで、これがなんとおいしいコト。
湯呑みという器の形状。だからまず手にその温かさが伝わってくる。香りが器の中にしっかり閉じ込められてて、口に器を近づけると徐々に香りが近づいてくる。ブラウンマッシュルームの土の香りや森の匂いが体の中に飛び込んでくる。力強くて深い旨みにウットリします。

メインディッシュの時間が来ます。まずはお魚。「荒波を乗り越えて」という料理。
魚は長崎五島のクエ。
20キロという大きなサイズのクエだったらしく、それを20日間熟成させて旨みを十二分に引き出したモノ。
ガストロパックという低温で時間をかけて加熱する、近代的な調理法にて加熱している。だからブリンと歯ごたえまるで鶏肉のよう。

それに合わせるソースは「ふぐ子」のソース。ふぐ子といえばフグの卵巣をぬか漬けにした珍味の一つで、それをスープでとき煮詰め、エスプーマを添えてふっくらさせたもの。これがまるでアメリケーヌソースのような味や風味であることにビックリします。
ちなみにこの料理の英語名が「the survivor」。河豚の卵巣を食べてなお生き残っているボクらのことを言っているのかと思って聞いたら、この大きさまで生き残ったクエのコトでございます…、って。それもそうかと思って笑う。

パティシエが焼いたコロンと丸いパン。ザックリしていて塩の旨みが際立つ仕上がり。それに合わせてブルターニュのバターに海藻を混ぜたものがやってくるのもオモシロイ。
「ゆらめく微光」という口直し。加賀軟水にワインをちょっと混ぜて作ったジュレに柚子。普通グラニテがやってくるとこ、ジュレというのがオリジナルなとこ。グラニテほどは冷たくなくて、舌へのストレスが少ない上に、やさしい味に口が洗われ心が休む。いい口休め。
ポルトガルのスパークリングワインからはじまりロゼのワインを挟んでとうとう、ジンファンデルまでグラスが進む。肉の料理がやってくる。

天城峠の仔鹿の藁焼き。
ストゥブ鍋に香りを閉じ込めこんがり焼いた鹿肉の、肉感的に赤いコト。鉄分が多い肉だから焼いても赤身の色があせない。
鹿肉らしい森の香りはそのままで、焼けた藁の香りが鼻をずっとくすぐる。
料理の名前は「里山からの贈り物」。

肉だけじゃなくケールの揚げたの、ふきのとうを揚げたもの、野菜のピュレと野菜さまざま。
肉もおいしい。けれど揚げたふきのとうを噛んだ瞬間、カサカサ乾いた音がして、枯葉を踏みしめ鹿が姿を目の前に現すような感じがしたのにウットリしました。胡椒の香りと辛味を閉じ込めた、ソースポワブラードの出来栄えがすばらしくって、さすがフレンチ…、とまた感心。

さて、お名残惜しくもデザートの時間がやってくる。
「あの頃の思い出」といういちごのデザート。小さなカップにあまおうのババ、ザバイヨーネにとちおとめのジェラートと異なる食感のいちごのお菓子が重なりあって、口の中でひとつにとろける。「あの頃」っていつごろのことなんだろう…、初恋時分のことなんだろうか…、ってぼんやり思ってニッコリとする。
そしてデザートのふた皿目。「白峰」という名前の通り、白いお皿に白いお菓子。チョコレートをザクザクに焼いたお菓子の上にわらび餅。黒ゴマソースにローストアーモンドのアイスクリームと、それらを一緒に食べると口がスベスベしながらザクザク歯切れる。食感たのしいオゴチソウ。
そして最後にソーイングボックスに入ったお菓子。つまりプチフル。ハーブティーをお供に会話をたのしみながら2時間半があっという間に終わってく。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。