雅味近どう。お腹の中に春が来た
岐阜に来て、いつものように雅味近どう。
先月も来た。その献立は春に焦がれて、春を予感させるものだった。
今月のそれはまさに春。
八寸の器に桜の枝が一本彩り添える。まだ膨らみ始めたばかりの蕾が愛らしく、早めの花見がはじまるようで気持ちがゆっくり膨らんでいく。
トマトの煮浸し、豆豆腐。おひたしにした菜の花に炊いた鯛の子、だし巻き卵。昆布じめにしたヒラメの押し寿司、上には梅酢に漬けた白魚が二尾。煮浸しにしたそら豆と並ぶ料理も春の色。炊いた鯛の子が大好きでネ…、でも魚卵はあんまり食べちゃいけないとひさしぶりのオキニイリ。
続いてお椀。
塗りの器の蓋に細かな水滴ちらし、開けると中からおいしい香り。今日の椀種はホタテ真丈。ちょっと硬めに仕上げられてて蒸したアワビのようにむっちり。味わい濃厚、出汁も上等。にんじん、小松菜、しいたけ、タケノコと食感、味わいにぎやかでお腹がおいしくあったまる。
続いて刺身。脂ののったヒラメにマグロ、エビとどれも味わい上等。
でもそれ以上に感心したのが盛られた器。桜の花びらの模様が入って、今の季節にしか使えぬもの。そういう器を揃えているというのにウットリ。
ここの定番料理のあんかけまんじゅう。桜の塩漬けが添えられて、まんじゅうの生地にも刻んだ桜の花びら。とはいえ香りはほのかで餡や包んだカニのほぐし身の風味を邪魔せぬほどよき仕上がり。
何より餡がおいしいんです。スベスベとしたとろみなめらか、豊かなうま味に明るい酸味が後味すっきりひきしめる。
そして焼き物。
サワラの幽庵焼きに肝の醤油煮。
蕗の佃煮が添えられてくる。
焼き物の手前に一枚、椿の葉っぱ。春の景色が出来上がる。
魚に春でサワラです。
身が柔らかく癖が強い魚を味噌に漬け込んで、水気をしぼってむっちりとした食感にする。
手間の分だけおいしくなっていく料理。
〆に向かって最後の料理、油もの。
小さなお鉢に天ぷらの揚げ浸し。こごみの天ぷらを動かし中を覗いてみればタチウオ、海老芋、大根おろし。出汁に使っていながらもサクサクとした衣の食感はしっかり残り、口の中でサクサク壊れる。芋のとろけに甘みに香り。タチウオはハラリと壊れてちらかって、コゴミの苦味が春を呼ぶ。
〆は焼きおにぎりの出汁かけ茶漬け。
軽く醤油をまとわせ焼いた小さなおにぎり。几帳面な三角形とほどよく焦げたご飯がなんともうつくしく擦ったばかりのわさびがチョコン。三つ葉に海苔の香り鮮やか。
崩してハフハフ食べてくと、焦げたご飯がまるであられのような食感、香り。おむすびの芯のご飯はふっくらやわらか。ひとつのお椀の中にいろんな料理が片寄せあっておさまっている…、そんな感じにウットリします。
食後のたのしみ、今日の甘味は羽二重餅にミノムスメ。
岐阜特産のイチゴは酸味がクッキリしてて、羽二重餅の生地にもイチゴが練り込まれている。熱々のお茶をコクっと飲んで、お腹の中に春が来た。