長良川の畔にて潜龍、感動す…。

長良川の畔にて潜龍、感動す…。

senryusen teppan岐阜に来て、すばらしいお店に案内いただく。
「潜龍」というお店。
場所は長良川の畔にあって、遥か上にはお城が見える。
到着したときには日が沈んでて周りは暗く、どんなところにきたんだろう…、とちょっとドキドキするロケーション。
川のせせらぎと水面に映る街頭が、すぐ目の前に川があるんだというコトだけはわかるよう。階段上がって高台につく。
するとビックリ。
大きなお庭を包むようにして建つ洋館、和館。
中に入ると下足番がいて、靴を預けて待合につく。おしぼり、お茶を振る舞われ和三盆で口を潤し、さてご案内。旅館かホテルのロビーのような通路を通って案内された個室には、なんと鉄板が埋め込まれたテーブルひとつ。床の間付きのしっかりとした畳の部屋に鉄板焼きのテーブルが置かれているという不思議な空間。びっくりぽん。

sen zensaiしかもその鉄板の磨きこまれてうつくしいこと。
ただピカピカなわけでなく、何度も何度も磨き上げたからなのでしょう…、細かな傷が無数について、鈍い光を発するなんとも肉感的なるうつくしさ。
桐のテーブルも同じくキレイに磨かれていて、角がとれてなめらかなること、ピトッと手のひらすいつくよう。
果たしてココで何がこれから怒るんだろう…、とワクワクします。

いらっしゃいませと、着物に割烹前掛けの女性スタッフがやってきて、食事の準備がはじまっていく。
メインはステーキなのでしょう。
おいしい肉の予感ただよう、前菜料理がまず二つ。
ローストビーフに肉の佃煮。
ローストビーフにはポン酢のジュレと、ブロッコリーのスプラウト。佃煮の肉は松阪牛で、どっしりとした味がワインをねだって飲んだ。

それからスープ。かぼちゃのスープでございます…、ってやってくる。
ポッテリ系かと思って飲んだら、かぼちゃのピュレはほんの少々。基本的にビーフコンソメで口に広がる味は見事な牛肉の味。

sen nikusen yakiどれだけ手間とコストをかけて作ったんだろう…、って思うスープをしかも湯呑でそっと出す。感心しながら、サラダが届いて、そして今日の主役が堂々、やってくる。
肉です。
肉。
見事にサシが入った塊の肉。
4人で来ました。
これでお一人様150g程を召し上がっていただくことになりますという。脂などを掃除しながら焼くのでしょうから、700gくらいはあるのでしょう。
高足の器にのせられやってくる、まずそのさまが堂々としてうつくしい。
肉の上に脂とスライスしたニンニクがのっかりやってくるのが独特。しかも脂が真っ白でうつくしいこと…、ウットリします。
その肉を、ひっくり返して鉄板の上にそっとのっける。
ジジジと湿った音がして脂が焼ける甘い匂いがやってくる。鉄板の上に置かれた肉を横から撮ると、脂の分だけ宙に浮いてる。
まずは脂を溶かしてそれで、肉をこんがり焼いてく趣向。塩をほどこし、すかさず蓋してしばらく蒸し焼き。

sen stksen steakちなみにこれら一連の調理を女性スタッフひとりでする。てっきり偉そうな調理人がコック帽を被ってやってくるものだと思っていたら、女性が焼く。
おいしい肉とうちの特製の鉄板があれば、肉が自分でおいしく焼けてくれるから…、と。なんとたのしい。しかも彼女の知識、話術のすばらしきこと。

こんなことを聞いてもいいかしら?と思うようなコトを聞いても全部答えてくれるのですね。
この鉄板の厚さであるとか、実は鋳物の鉄板で蓄熱性と熱伝導率が高いから、肉がこんがり焼けるのだとか。
牛を育ててくれてる人の話だとかと、たのしい話をしながらずっと手を動かしてく。
同じ話をおじさんシェフから聞くとおそらくうんちくがましい。
女性の口から聞くとすんなり、自然に耳に入ってやってくる。ボクらは調理を見せつけられているのでなくて、調理を通してサービスを受けているんだとウットリします。今までみたどんな鉄板焼きのお店とも似てはいないのに再びウットリ。

sen sidesいをとると脂はすっかり溶けていて、鉄板側の肉はこんがり焼け始めている。脂がフツフツ沸騰してて、それで軽く揚がった感じ。
肉を移して脂とニンニクだけにして、それを何度もひっくり返して丁寧に焼く。
まずはどうぞ…、とこんがり焼けた脂とニンニク。
脂の風味と甘味のしみたニンニクのおいしいコト。おいしい肉の予感をさせる。
おいしい具合に焼いてください…、とお願いをするとミディアムレアに仕上げてくれて、鉄板の上においた陶器のお皿の上に並べてくれる。

いやはや、これまたうつくしい。
芯の部分のロゼ色といい、こんがり焼けた表面部分の焼け色といいこのうつくしさでご飯が一杯食べられそう(笑)。
焼いて臼ですりおろしたというピンクソルトや、出汁の入った醤油に芥子。大根おろしなどを使ってどうぞという趣向。
まずは塩だけそっとのっけて、口入れると、脂がとろける。
噛むとジュワッと肉汁がでて、あっという間に繊維がほぐれて散らかり消える。
もっと時間をかけて味わいたかったなぁ…、と思うもあっという間にとける。肉の脂の旨みに舌もたじろぐ感じで、でもとまらない。
野菜もお焼きいたしましょうと、まずは玉ねぎ、アスパラガス。鉄板パワーなのでしょう…、野菜の持ち味がいきいきしていて、しかも甘みが引き出されている。うちのために作ってもらっているんです…、という生海苔風味の生麩は表面サクッと焦げて、中はトロリとなんともなめらか。

sen onion山芋はサクッと歯切れてたちまちとろけ、地元の椎茸は傘の裏側にたっぷり旨みジュースを蓄え、何もつけずとも素材の味で十分旨い。一口食べては感心し、しかも自然と笑顔になる。
ニコニコするくらいじゃ足りなくて、ハハハと大きな声上げ笑ってしまいそうなそんなおいしさ。
素直においしいと思えるものは、人を明るく幸せにする。

鉄板の上に置かれた陶器のお皿。
穴が空いてて、そこから鉄板の熱が上に上がってく。肉はずっと温められている状態で、徐々に肉の様相が変わってく。
スゴいなぁ…、と思ったのが、熱が入って肉の断面が盛り上がってくるところ。
旨みジュースが温められて外に出ようとしているのでしょう。
食べると焼きたての時と違って、繊維がカチッとたくましさを増す。噛みごたえがしっかりしてきて、前歯で繊維がちぎれる食感がまさにステーキ。
そうこうするうち、厨房からお待たせしましたと筋と脂。
焼き始めるとき、キレイに掃除をした肉の筋の部分をこんがり焼いてきたもので、これがクニュっと旨いのです。
ニンニクのっけて食べる肉も、脂がのっているのに不思議とスイスイお腹に入ってく。

sen ninnnikusen gr焼いてもらって一人前分。150gほどがやってきたとき、これだけなんだと思った肉も、一切れ、ひと噛みが濃厚、重厚。
だから十分、満足します。
こんな脂ののった肉が、ペロリとお腹の中に収まるシアワセに、ニッコリしながらさぁ、〆にする。
ご飯に赤出汁、お新香をご用意してはおりますが、ガーリックライスにすることも出来るのですがいかがしましょう…、と。断る理由はどこにもなくて、お願いしますと作ってもらう。

これがまたまた驚くべきかな、脂を刻んでまず炒めます。
白大理石のごとき脂が、鉄板の上でやけ溶けて、小さくなりつつ透き通ってく。そこに刻んだニンニクを入れ、こんがりやいたところにご飯。
あとは余熱で調理しますと、鉄板の火を切ってもずっと熱々のまま。ご飯がジリジリ焼けていく。
分厚い鉄板が発する熱は、ご飯の芯まで焼いていく。薄い鉄板やフライパンだとご飯の表面はコゲるけど、中はそのまま。けれど分厚い鉄板で焼く。芯の水分がどんどん出ていき、ご飯がもっちり。まるでもち米みたいに重たくなっていく。
醤油をふって風味をつけて、折りたたむようにして形をまとめる。練った梅干し、大葉を刻んで混ぜ込んで、お皿に移して出来上がり。

sen simesen desertパラパラがおいしい炒飯とはまるで真逆のもっちりご飯。
だからお箸で持ち上がる。
ご飯同士がくっつき合って焼けているけど、粘ることがない。口に入れるとパラリとほどけて、焼けた香りを口に広げてちらかっていく。
あぁ、おいしいなぁ…。
かなり多めのご飯もすんなりお腹の中に収まった。

お口直しにとシークワーサーをソーダで割って一口分だけ。
小さなグラスにやってきて、それと一緒に分厚いおしぼり。果たして今まで、お店に入ってボクらはなんどおしぼりもらって、手を拭いたろう。
おそらく10回は優に超える回数の、おしぼりサービス。気持ちを変えるに十分の、粋でうれしいおもてなし。
バニラに抹茶、ベリーのジェラートをデザートにもらってお腹に蓋をした。
都合3時間ほどでありましょうか…、ずっと興奮しながらたのしみ、お店を後に車に乗ったその後も、しばらくたのしい夕食の話でボクらは盛り上がる。
こういうお店に出会える人生。ステキだなぁ…、としみじみ思う。感謝する。

 

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コメント

  1. いにしえ

    サカキさま

    いつも楽しく拝読しています。

    潜龍!とあれば初めてコメントをしたくなりました。今は東京在住ですが徒歩10分程のところに実家があります。いまだに行ったことはありませんが、近所にあることが誇りのようなお店であることは子供ながらに知っている、そんなお店です。

    昔栄えた産業があったからか、歓楽街があるからか、岐阜には興味深く美味しいお店が存在していますが、街の元気はいまひとつです。

    これからも岐阜をよろしくお願いします(笑)。

    • サカキシンイチロウ

      いにしえさん。
      お殿様や役人がふんぞり返っていた名古屋と違って、昔から商人文化が脈々と流れ、受け継がれている岐阜という町。
      特に食べるというコトに関しては、名古屋よりずっと成熟して、ステキと感じます。
      新幹線がもし岐阜羽島なんていうへんてこりんな場所でなく、岐阜の駅に乗り入れていたら、駅前商店街も今のようなシャッター街にならなくて済んだにちがいないのに勿体無いなぁ…、って思ったりもし、でもだからこそ大手チェーンにあまり荒らされぬ今があるのかもしれないなとも思ったりする。
      また伺うのが待ち遠しくてしょうがありません。

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