矢部の昼

ひさしぶりの銀座矢部。
新宿御苑の近くで小さなお店をやってらっしゃったときからのおつきあい。
新宿花園町にお店を移し、縁に恵まれ銀座に出店。
銀座にあっても威張らぬスタイル。オープンキッチンを囲むカウンター。Lの字形のカウンターの要の角には大きなまな板。まるで舞台のように設えられてて、そこでご主人がずっと魚を触ってる。
手を動かすことが大好きな人。
今日は鱧の骨を毛抜きで抜いてはキレイに抜けたか愛おしそうに肌を撫でてはニコニコしてる。
調理そのものは若い調理人が任されていて、ご主人は指示を出し確認するだけ。人が育つ店ってステキ…、だから今でも花園町の店は繁盛。人気のお店。

昼の簡単なおまかせコースを作ってもらう。
まずは前菜。蓴菜をジュレに見立てて、出汁と一緒にグラスに注いだ涼しい一品。
グラスを口につけて飲むと、トゥルンと口にやってきて噛むとザクッと歯切れてとろける。
青い香りが出汁の風味と一緒になって、涼しい感じに拍車をかける。
そばの実と湯葉で作った和物は、トゥルンと口の中に飛び込み、あっという間にお腹の中へと流れ込んでく。

鮎の煮浸し。
焼いた鮎を出汁に漬け込み、鮎から滲み出した脂を再び鮎に戻して仕上げる和風のコンフィ。焼けた脂の香りが甘く、鮎そのものの青い香りが一層引き立つ。
料理自体はひんやり冷たく、夏の先取り。

鮎の身は引き締まってて、味もギュギュッと凝縮された感じがする。鮎独特のお腹の渋みが鮮やかで、口の仲が出汁の旨みと鮎の風味で満たされる。
冷たい鮎のかたわらに生姜と味噌が添えられている。齧ると生姜はかなり辛くて、冷えたお腹があったまる。冷酒なんかが旨いのでしょう…、仕事でなければ飲んでたところ(笑)。

冷たい料理が3つ続いて、次は一転。
グツグツ沸騰しながら小鍋がやってくる。

小さな土鍋。
蓋をあけると中は玉子で閉じられ、出汁がフツフツ沸いている。
中身はハモ。
骨をキレイに取り除いた切り身がたっぷり。
白ウドに鱧の玉子が一緒に混じる。ハモはふっくら。
噛むとネットリ舌や歯茎にからみつき、強い旨みにウットリします。
玉子もふっくら。中に鱧の魚卵がプチプチ、混じってはぜる。
ハモを食べると、あぁ、夏だなぁ…、って実感が湧く。
考えてみればこのシーズン、最初のハモで、それがこんなにおいしくてこんなに粋でたのしい料理であるというのにニッコリします。

ハフハフふうふう食べてると、今日の蕎麦はこんな蕎麦です…、って切ったばかりの蕎麦をみせてくれる。

粗挽きの粉の十割で、つなぎもなにも使わずしかも粗めというのに、蕎麦そのものの力でまとまり、切れば蕎麦の形になる。いいそば粉ならではなんですって、まずせいろ。
角が立っていてまず一口だけ何もつけずにそのまま食べると、その四角い断面の輪郭を感じるほどに情報量がおおいのですネ。香りも強く、噛むと軽く粘ってとろける。タレにほんのすこしだけ浸してすすると、啜った途端にタレの塩味の予感を感じる。タレをたっぷりたぐりよせ口が一瞬、タレ味になる。なのにたちまち蕎麦本来の風味や旨みに置きかわる。天ぷらお供にあっという間にお腹に収まる。

いいそばだなぁ…、と感心しながら、次の一杯。
ココの名物料理のひとつでもある「チーズまぶし」のそばをもらった。

蕎麦をチーズで味わうなんて、真面目な蕎麦屋はまずやらない。
中には蕎麦に対する冒涜だ…、って怒る人すらいるだろうけど、ココは蕎麦屋ではなく日本料理の専門店。
たまたま蕎麦がおいしいからと、コースの〆に蕎麦をふるまうスタイルになり、それで人気が出た店でもある。
だから蕎麦に対しては自由な発想、フリーハンドでメニューが作れる。

蕎麦に対する自由な発想の集大成の一つがこれで、何しろ茹でて〆た蕎麦にオリーブオイルをからめるところからスタートします。

お椀の中にテカテカひかった蕎麦のオリーブオイル和え。まずそれだけをズズッとすすると、口に広がる油のおいしさ。オリーブオイルの緑の味と香りがただよい、一瞬ビックリするのだけれどしばらくすると落ち着いて、蕎麦の香りと味が中から姿をユックリあらわしてくる。

そこにたっぷり、細かく削ったチーズをのせる。
のせたら混ぜる。
混ぜてるうちに蕎麦がどんどんもっさりしてくる。蕎麦がオリーブオイルをグイグイ飲みこみ、そこにチーズが貼り付いてきてそれでもっさり。ツルツルすすることができなくなっちゃって、箸でまとめて舌の上にのっけるような食べ方になる。
まさにパスタな感じで味もチーズのコクでパスタ味。頭が混乱するたのしさで、しかもおいしい。
用意された熱々の鰹節の出汁をかけると、オリーブオイル、チーズに出汁が一体となりコクと風味が蕎麦にからんで、洋風ではあるんだけれど濃厚味のかけそばになる。これも蕎麦だなぁ…、ってしたたか、感心します。特にカツオの出汁の柔軟にして力強きこと。まさかオリーブオイルやチーズと一緒になるとは思っていないはずなのに、あっさり受け止め受け流す。すばらしいとウットリします。

蕎麦湯でお腹をあっためる。蕎麦湯というにはぽってり濃くて、しかも蕎麦のすべてを食べ終えるタイミングを見据えて提供されるというのがアリガタイとこ。冷めた蕎麦湯は風味、味わい台無しで興ざめのモノ。ここのは熱々。しかもツユと混じってもそのぽってり感を失わず、出汁の味したポタージュスープのようにふるまう。
オモシロイことにそのままであるときよりも、出汁の風味が力強く、旨みも際立つ。そば粉独特のイガイガ、喉をひっかくような感触が面白くって、ユックリ飲んでたのしみホっと、息をつく。
グレープフルーツの酸味と苦味で味わうプリンで、昼のお腹に蓋をする。

 

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