永坂更科布屋太兵衛、まだまだ営業しています…。

蕎麦を食べましょうと、永坂更科布屋太兵衛。メトロビルの地下の店。
贔屓していた「大庵」が3月7日まで休業中。ここもそろそろ閉店予定。なんだか気持ちがさみしくなっちゃう。
メトロ食堂街という施設自体はもう終了で、数店だけが独自営業。いつまでやってらっしゃるんですか?って聞いたら「少なくとも今月いっぱいは…、ということだけはわかっているんですけれど」との答え。
本当にさみしくなっちゃうなぁ…。
ここがなくなるということは併設された立ち食いコーナーもなくなることで、代わりに新しいお店がどこかにできるんだろうけど、こののんびりとしたムードや空気は作ろうと思っても作れるものじゃござんせん。
古いものを壊してできる再開発ビルには必ずのように「昔がテーマ」の施設ができる。けれどテーマはテーマで偽物で、壊したものは戻らない。

二色天せいろを選んで食べる。
そばが2種類。
御前そばに更科で、そばの実の芯だけ使った真っ白にして極細の御前そば。
ちょっと太めの更科は明るい灰色。
「二色」という言葉の「色」を「種類」の代わりに使うことが一般的でけれどこれは見た目の「色」でもあるステキ。
ここには「生粉打ち」という太くて平打の麺もあってずっとその歯ごたえと噛み心地が好きで食べてた。
ところが最近、そばは噛み心地よりも喉越しだなぁ…、ってしみじみ思うようになって細い麺が好きになってきた。歳をとったと思うとさみしくなっちゃうから、やっと大人になったんだと思うことにする(笑)。
天ぷらの衣は色白。しかも薄付き。さっくりとしてエビにししとう、茄子にかぼちゃと揚げた具材の姿を外から見て取れる。

タレが2種類。あま汁。から汁と揃っているのがここの独特。
あま汁は甘いと言うより旨味が強くて昆布の風味を感じる味わい。
一方、から汁の方は醤油の風味と鰹節由来の酸味がくっきりした風合い。
太い生粉打ちを食べるのならば断然、から汁。
更科もから汁の方が蕎麦の風味や力強い香りが際立つような感じがするのでまずはから汁だけでスルッと味わう。
合わせるそばが素朴で力強ければ強いほど、から汁の素っ気なさが蕎麦の個性を際立たす。
トプっと軽く浸してズルンと勢いよくたぐりあげる。
すると口の中に霧のようになったタレが飛び込んでくる。空気と混じって香りが華やかになっていくのがオモシロイ。
御前そばの細さはタレを容赦なく含んで口の中に運んでくれる。だからから汁だけだと味が強くて単調になる。そこにあま汁をちょっとづつ、足してはたぐり徐々に旨味がましていくのをたのしみ食べる。
天ぷらの衣をタレにとっぷりつけて、天ぷら油をとけこます。油でタレにコクや深みがついてくるのがオモシロイほど。

蕎麦はみずみずしくて香りゆたかでボク好み。それに加えて天ぷらのおいしいことにはウットリします。
衣はさっくり。何よりエビの太くて食感たくましく、甘くて香りの鮮やかなこと。ムチュンと歯切れてエビ独特の甘い香りを撒き散らす。エビをあんまり食べると足が痛くなるのがわかっていて、この魅力には抗しがたしで尻尾もしっかりバリバリ食べる。
油を含んだ茄子はぽってり。ツユと一緒に口に含むととろりとろけて油の旨味を残して消える。
蕎麦も天ぷらもきれいに食べて、残ったツユにネギを入れ蕎麦湯を注いでゴクリ、味わう。そのまま蕎麦に浸して食べていたときは感じなかった出汁の旨味が口に広がるオモシロさ。満たされました…、オキニイリ。

 

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コメント

  1. miatamore

    古いものは壊して、偽物の「古いもの」を作るのが、近頃の流行りなのでしょうか。少し前は、古いものを壊したら、完全に新しい(と思える)ものを作るのが習わしでしたね。どんなにお金をかけても、時間が作り上げたものは取り戻せない。だから、古いものを壊してはならないとずっと思っていました。でも、ビルの老朽化のように、そのまま残していては危ないものもあります。壊して新しくすることが避けられないのであれば、壊される前にあったものを語り継ぐ、壊される前にそこにあったアニマのようなものをできるだけ共有するしかないのかもしれないと最近は思うようになりました。それが歳をとったものが次の世代に伝える仕事なのかな、とも。

    • サカキシンイチロウ

      miatamoreさん
      耐震基準を満たしていないからとか経年劣化が激しいからとか、古い建物を壊す理由はたくさんあるんだろうと思います。
      でもそんなことをしてたらヨーロッパの建物はみんな壊さなくちゃいけなくなっちゃう。
      手をかけながら長い時間、愛着をもって接するという姿勢がビルだけでなくさまざまなものに対して、日本には欠けているのかもしれません。

  2. miatamore

    常々思うのですが、日本は「新しいものが良いもの」という考え方が根強いのではないかと。例えば神社を定期的に新しくして神様をお迎えする式年遷宮のような考え方、おそらくヨーロッパにはないですね。
    スクラップ&ビルドは儲けるための考え方ですけど、日本人の「新しきことは良きことかな」的発想と合致しているからこそ、じゃんじゃんそういうことが行われるんじゃないでしょうか。
    壊すべきもの、壊しては取り返しがつかないもの、日本はその判断をもっと慎重にしていかなければと思います。

    • サカキシンイチロウ

      miatamoreさん
      日本の人の若さに対する執着もそんな考え方の延長線上にあるように感じます。
      老いるということを成熟するというふうに変換できればもっと自然に歳を重ねることができるのに…。
      テレビの通販番組をみていると姉妹のように見えることを誇らしく語る女性が出てくるのだけれど、どうみても親子にしかみえないのにわらっちゃったりします。滑稽です。

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