新宿御苑のベンチ

新宿御苑の近くで食事を終えたら、タナカくんが御苑に行ってみたいと言ったような気がした。
QRコードで登録しなくちゃいけなかったり、ちょっといろいろ面倒くさいことになってて、これも今どき。
御苑の中に入って目指すは池の畔に置かれたベンチ。
去年。
最後の花見にやってきて、どうしてもしたいことがあるんだといい真っ先に向かった先がこの池だった。ご両親と一緒にきたとき、お父さんが座ったベンチに座ってどんな景色か見てみたいんだ…、と。
不思議なことをいうなぁって思いながらも一緒に行ったら、コロナのせいで椅子が撤去されていて、残念だなぁって寂しそうにしていた場所。
ベンチはしっかり整備され写真をとったらそこにタナカくんが座ってるように見えてきた。

ベンチに座って日向ぼっこ。
この景色が見たかったんだなぁ…、と公園越しのドコモのビルをぼんやり眺める。
そのあと何の目的もなく行き先きめずにブラブラ公園の中を歩いた。
そしたら今まで来たことのない鬱蒼と茂った森の中に迷い込んだ。
どうも公園の南側に来たようで、それからぶらぶら。

再び気の向くままに歩いていたら母と子の公園なんて里山作りのエリアに出た。何度もこの公園にやってきて、いつも行く場所が決まってて、だからこうして知らない場所がまだ残っていたんだなぁ…、新宿御苑のことはよく知っているつもりだったけどそんなことはなかったんだね。

ボクはよそ見をあんまりしなかった。寄り道もせず行こうと決めたら一番効率のいい方法で、その場所に行く。行って用事をすませたら、次の目的にまた向かうというクセがあったような気がする。たまにぶらぶら散歩のように歩くこともあったけれど「観察しながら歩く」ということが習慣づいてしまってた。目的なく歩くって気持ちいいなぁ…、何かを見つけようと思わず歩けば、思いがけぬものが見つかる。不思議だけどそんなもんだと今日は思った。
思いがけずも見つけた自販機にドクターペッパーを見つけて飲んだ。
ブラブラ歩いて見慣れた景色にホッとして気づけば出口。脇にあった地図をみたら、今日の散歩で新宿御苑のすべてのエリアを制覇していた。タナカくんが見たかったこの公園のすべてが見れたと思うとなんだかあったかい。

夜食代わりにお腹にやさしく消化にいいものを食べましょうと伊勢うどんを作ることにした。
買い置きの伊勢うどん。冷蔵庫の中に入っていたのを表に出して室温にまであっためて、たっぷりのお湯に沈めてクツクツ。最初は密着していた麺がゆっくり、けれど確実に剥がれてほぐれて泳ぎはじめる。
丼にタレ。湯切りしたうどんを移して上に天かす。九条ネギ。赤唐辛子に胡麻をちらして出来上がり。
ぐるぐるかき混ぜズルンとたぐる。やわらかいけど途中でちぎれることもなく口の中にやってきて、ヌメッと口の隅々撫でる。たまり醤油の濃厚で豊かな甘みに天かすの油が混じって一層濃厚な味になってく。体が芯からあったまるやさしいゴチソウ。さぁ、寝よう。

コメント

  1. 薬局の末息子

    高村光太郎の「案内」という詩を想起しました。(『智恵子抄』 
    https://www.aozora.gr.jp/cards/001168/files/46669_25695.html )
    戦争で、東京を焼け出された高村光太郎が花巻郊外に居を構えたときに、智恵子さんに向けて書いた詩。

    「智恵さん気に入りましたか、好きですか。」
    「智恵さん斯かういふところ好きでせう。」

     智恵子さんが内在化していて、寂しくなくなっているんだなあ、と。
     一年経って田中さんもサカキさんの内に在るんですね。

    • サカキシンイチロウ

      薬局の末息子さん
      タナカくん気に入りましたか、好きですか。
      タナカくん斯かういふところ好きでせう。
      たしかにそう考えることが多くなりました。ずっと一緒にいてくれるんだなぁ…、と思います。

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