岡半本店、肉料亭の肉の昼

銀座に移動。ランチの時間。無性に肉が食べたくて、岡半本店を目指して歩く。
本当は分厚いステーキを食べたかった。けれど銀座で、気軽にステーキを食べようと思うと、店を選ぶのに苦労する。アメリカンスタイルのTボーン系のお店はいくつかある。けれど一人でふらりと行って、肉だけ食べて帰るのがちょっと難しいお高い雰囲気。
ちなみに値段のお高さじゃなくて、雰囲気の高さでござる。
かと言って、立ってステーキを食べるのはステーキに対する尊厳を失う行為と思っているから気がひける。
それで岡半。金田中という料亭が経営している肉の業態。金田中ビルって名前のビルの最上階の2つのフロアがそれぞれ鉄板焼きの店、しゃぶしゃぶ、すき焼きの店となっててランチは鉄板焼きのフロアが営業。そこに飛び込む。
ちなみにこのビル。挟まれた2つの道路をつらぬくように通路が作られ、路地のような景色を作る。銀座によくあるビルの形が街にやさしい。そして昼。

見事に磨き上げられた大きな鉄板。炭をおこした炉が2か所。そこには網が置かれて地鶏やフォアグラが炙られている。
喉がなります。まずはサラダがやってきて、それを食べつつ料理ができるところを眺める。
コックコートに身を包むシェフがやってきて一組分づつ焼いていく。そのさま粛々。静かで丁寧。肉や野菜が焼けるおいしい音が響くのみ。
寿司屋のようなステーキ屋ができないものか…、と神戸のとあるお店が頭をひねって完成させたのが鉄板ステーキというこのスタイルで、それがアメリカでエンタテイメントレストランとして開花した。ナイフやフォークをぶつけて鳴らすサーベルダンス。鉄板の上で無駄にフランベしたり派手な調理を売り物にした店が沢山あるけれど、日本の店は静かで凛々しい。

茶の湯に魂の安息を求めた武士道…、みたいな感じ。
どうなんだろう。
そうそう、ちょうどボクの目の前の鉄板の上に小さなフライパンがズラリと並ぶ。
真鍮製でピカピカキレイに磨かれていて、中にはシチューが収まりスタンバイ。
大きく分厚い鉄板は場所によって温度の高いところと低いところが熱伝導の具合でできる。温度の低い場所は保温にピッタリで、ちょうどボクの目の前がそういう場所であったのでしょう。
そこからひとつ、またひとつ。
肉や野菜を焼いてる場所に移して置いた途端にフツフツ。シチューが沸騰し始めていく。
恥ずかしげもなくお腹がなった。

そうこうするうち、食事の準備が着々とすすんでいきます。
ご飯に小さな器に赤出汁。
タレが2種類。醤油に芥子を溶いたのと、ポン酢に大根おろしをたっぷりくわえたモノが揃ってそろそろ肉の出来上がり。
モヤシ、水菜を炒めた上に一口大に切ったヒレ肉。サーロインは薄切りにして丸めて焼く。そうすることで肉汁が閉じ込められて、薄切りなのに食感確かなステーキになる。お待たせしましたと目の前に、湯気とおいしい香りとともにお皿が置かれてウットリします。

巻いて仕上げたサーロイン。クチャっと歯ごたえ肉感的で、脂がとろけてハラリと口で散らかっていく。
ミルフィーユカツというのがあるけど、これはまさしくミルフィーユステーキ。
この肉汁のおびただしいこと、舌が口で溺れるほどでご飯と一緒にパクリと食べると、ご飯も濡れて喜ぶ感じ。

一方、ヒレはネットリねばる。ムチュンと歯切れて奥歯で一瞬抵抗するも、ひんやりとしたロゼの部分が歯切れてあとは消えていくのみ。強い旨みと軽い酸味が交互に舌にやってきて、これまたウットリ。
両方で量にしてみればおそらく200gとちょっと程度でしょう。
けれど一度に2つの味わい。しかもこれほど異なる食感をたのしめて、分量以上の満足感に感心します。オモシロイ。
ちなみにタレは芥子を混ぜた醤油が肉にはピッタリで、大根おろしポン酢はモヤシ専用とした。そして案外、モヤシがザクザクおいしくて上等なコトに鉄板の力を感じてまた感心。

驚くほどに小さな器の赤出汁は、シチューがあるから本来汁はいらないところ、それでもやっぱりないと寂しい。たっぷりあるのは無粋でそれで、こんな器をワザワザ使ってもてなしとした。
しかもその味、しっかりしていてまさに料亭的なるゴチソウ。ご飯もピカピカ上等で雨の火曜の憂鬱が吹っ飛ぶゴチソウ。オキニイリ。
食事を終えて席を移って〆のお茶。抹茶をたのむと手のひらサイズの小さな茶碗でやってくる。これもまた粋。お供に落雁…、二人静が供されてほろりほどけてやさしい甘さで気持ちを満たす。
鉄板焼きのステーキを食べたんじゃなく、今日は日本料理のランチとなった…、たまたまメインが鉄板焼きのステーキだったというコトで、それがシアワセ。退席す。

 

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コメント

  1. ボルテイモアのおかず

    二人静だ、こんなところでお目に掛かれるとは!
    もう十年以上いただいてませんが、サカキさんのお写真で、あのほんのりした甘さを思い出しました。
    こんな和菓子とお抹茶を食後に供されるなんて、素敵なお店ですね。

    • サカキシンイチロウ

      ボルティモアのおかずさん
      とことん儚いのですよね…、二人静。
      ホロリとほぐれて気づけば口の中からいなくなってしまっている、なのに余韻がずっと残る儚い甘さ。
      日本ですよね。ほっこりしました。

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