岐阜の隠れ家、GHEE胡麻のおいしい夜

岐阜の柳ヶ瀬。かつて日本の繊維業が隆盛を誇ったときにはにぎわったであろう中心街も今となってはぼんやりとした静かな街。夜ともなればさみしいほどに真っ暗で、しんみりとした空気が漂う。
ただ、そんな中においしくたのしい飲食店が潜んでて、驚くような料理を出してる。その代表的なお店に今日は行きましょう…、と。「GHEE胡麻」というお店を訪ねる。

もう20年以上もこの場所、この店で人気を保っているんだという。
GHEEといえばインド料理の基本をなす溶かしバターの調味料。それと胡麻で料理を作るとなればココは南アジアの料理屋さんか…、と思って中に入ると日本料理のおいしい匂い。靴を脱いで板間にあがると、ちょっと見下ろす位置に厨房。厨房の前には長いカウンターがありその上、あるいは棚にギッシリ食器が並ぶ。20年ほど前、ダイニングレストランと呼ばれる業態が流行ったときに、日本中にできたお店の典型的な姿のひとつ。

モダンなムードに引き締まったインテリア。おしゃれなだけのお店のように見えもし、けれどずっと繁盛している理由がどこかにあるんだろうと、勉強気分で料理を待った。

まずは菜っ葉となめこの煮浸し。力強い出汁の旨みになにやらステキな予感を感じる。
続いてお椀。
昭和20年代の作家物と言われるお椀でやってくる。
若鮎真丈のおすまし仕立て。
盛り付けのテーマは睡蓮なんですよ…、と。
ほーっ、テーマのある料理と、蓋をあけるとなるほど睡蓮。ほうれん草を丸く仕立てて蓮の葉っぱに見立てたモノが、ゆらりゆらりと浮かぶ様。お椀の中がまるで池のように見えてくる。
鮎をすり身にして饅頭にし、そこに薄切りのレンコンくわえて汁に沈める。黄色いにんじんで作った花びら。紅芯大根で作った花びらと確かに蓮に見えてくる。鮎の饅頭はふっくらとして、こんがり炙った皮の香りがフワリ漂う。泳ぐじゅんさい、立ち上がっていく湯気がまるで霧の如くでウットリします。印象派的な景色の料理…、味わいぶかい。

続いて刺身。
木の平皿にマグロの赤身に生ダコの足。
鯛にハマチにカツオのタタキ。
桜えびが彩りそえてやってくる。
海のない街。
だから刺身は熟成系です。
赤身もネットリ。鯛はトロリととろける食感。

ブリブリとした西日本的刺身もおいしい。けれどこういう旨みがしっかり凝縮された刺身もゴチソウ。悪くない。
オモシロイなと思ったのが、カツオのタタキにいぶりがっこをのせて一緒に食べてくださいという提案で、パリパリとしたいぶりがっこの食感に燻製された香りがカツオをおいしくさせる。オモシロイ。

分厚いサワラの切り身をこんがり焼いたモノ。脂がのって、自分の脂でパリッと焼けた皮もおいしい。西京味噌に漬け込んだ肉はネットリ。サワラ独特の匂いも味に深みをくれる。
黒い茶碗にとろみのついた胡麻のソースがたっぷりはいってやってくる。豆の緑が鮮やかで、胡麻のソースの下には蒸した白身の魚と京都の丸なす。ツヤツヤとしてトロミのついた姿はまるで治部煮のようで、ふっくらとした魚の食感、蒸されたトロトロになった丸なすと一体となり胡麻の旨みが口の中へとやってくる。これはおいしゅうございます。

コースの料理はクライマックスに向かっていきます。
日本料理的に言えばここで「油もの」。
厨房の方から油の匂いがやってきて、天ぷらかしらと思っていたらフライが来ました。

パン粉衣をまとったコロンと小さななにか。
その手前には岩塩をまとったウニ。奥には野菜のグリルにトマト。フライの下にはタルタルソース。
さて、このフライの正体は…。
なんとフグの白子でござった。まずはウニを調味料にして召し上がれ…、とそれでウニを乗っけてパクリ。白子がトロリととけるところにウニのトロリが混じってトロリ。白子の旨みとウニの風味がひとつになってなんと贅沢。オゴチソウ。
次の一口はタルタルソースで。このタルタルソースが玉子とレンコンでできていて、レンコンのシャキシャキ感が白子のトロリを引き立てる。浸して食べるツユも一緒に添えられていて、番茶と出汁を合わせたものだというので試す。出汁の旨みが終わると明るい渋みがやってくる出汁で、衣の油をキレイサッパリ洗い流してくれるたのしさ。

ちなみに厨房の中で料理を作っているのはご主人一人。なのにこれだけの料理をなんの淀みもなく、タイミング良く作って提供するその腕前にウットリしました。料理を大皿に盛って出す。天ぷらでなくフライを出すというような献立自体が一人で料理を提供し切る工夫のひとつ。ちょっと感心。

〆はココの名物料理。「和風おこげ」がやってくる。
焼いた土鍋におこげを入れる。おこげといってもおむすびにしたご飯をフライヤーに落として表面焦がしたもので、その熱々に熱々のあんをたっぷりかける。あんのベースはハマグリの出汁。その出汁をとったハマグリを殻付きのままサイドにあしらい、ワカメと青菜をたっぷりよそおう。
グツグツ、土鍋であんが沸騰。おこげを崩してあんとからめてスルスル食べる。おいしくないはずがない組み合わせで、中もあったか。おいしい汗が体の中から滲み出す。
一見ぶっきらぼうで怖そうに見えるご主人も話してみれば気さくで親切。だからずっと人気が続いているのでしょうネ…、いい店ひとつ、発見す。

 

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