安く売ること、安く感じてもらうこと

takumitakumimise景気がよいか…、というと決して良くはなく、けれど今年の9月くらいまではもしかしたら不景気疲れで消費が上向きつつあるのかもと、地方の飲食店を見ていて思った。
ところが10月に入ってからというものちょっと様子がおかしい。
お酒を飲む人が少なくなって宴会だとか会食需要が減る一方。忘年会をいつも通りにする会社も随分減って、飲食店はどこも苦労を強いられている。

こんなときに気持ちは「安く売らなくちゃ」って方に向かって行きがちで、そういう工夫をはじめたお店もかなりある。
そんなお店のひとつを見ようと、石巻の近くにある「拓美」という店にやってくる。
老舗の寿司屋を近所の予約が取れないので有名な「割烹みうら」という店が買い取り改装。この近隣の法事や会合をとろうと座敷をしっかり整備してやる気満々。
最近の和食のお店はそういう工夫をしないとなかなか売上が取れなくなっているからそれは良い工夫。なのにランチのメニューをみるとどれもが安いのです。

700円くらいの親子丼とか天丼、3種類の蕎麦とおむすび、天ぷらのセットであったりと1000円超えない料理ばっかり。1000円を越える料理は花かご弁当というモノだけで、もったいないなぁ…。せっかくの座敷がまるで活きない。
しかももともとの「割烹みうら」はすばらしいオモテナシで人気があるのに、なんでここまで安くしなくちゃいけなかったんだろうと思った。
それで本店。「割烹みうら」にやってくる。

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平日の昼間というのに満席です。田舎の人がココは本当に田舎ですからと念を押すほど静かで不便な場所にあり、もともと仕出し用の厨房があっただけの場所。たまたまちょっと離れた高台に古い民家があってそこを徹底的に改装し、居心地の良いお店に仕立てた。
料理はもともとあった仕出し工場から運ばれてくる。
テーブルの上には栓抜きだとか小鍋に火をつけるためのチャッカマンがズラッと置かれて、ご自身で面倒なことはやってください…、と、そういう素人くさいところがむしろ「料理の本物感」を引き立てる。かまいすぎないコトもひとつのオモテナシ。

miu-chawanmusimiu-agesanikyoアサリのむき身の味噌和えにマグロ、サーモン、エビの三点盛りのお刺身。
昨日の夜に続いてタラ菊のポン酢あえ。
そこからは次々、スゴいスピードで料理が運ばれ、食卓の上がたちまち料理で満たされる。

予約が前提。
しかもほぼ仕出しに慣れた厨房ですから、手早く料理を出すのは得意。

茶碗蒸しに天ぷら、焼き物。天ぷらはカレイの切り身に季節の野菜。
サワラの西京漬け焼きには、干し柿がひとつあしらわれていて、これが自家製。お店の軒下に吊るされできたモノというのが、気が利いている。しかも干し柿の中には栗のピュレにラム漬けレーズンが詰め込まれているという入念で、食事の間のよきアクセント。

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小鍋にパチッと火がつけられます。
小鍋の中はあんこう鍋。仙台味噌で仕立てられてて、白菜、豆腐に味が染み込み、それがお腹にも染み込んでいく。
カニのほぐし身と一緒に炊いた釜焚きご飯。それのおかずにと炙った豚肉。お腹を満たすには十分の料理が全部出るのにほぼ1時間。
あとはおしゃべりをしながら自由に時間をお使いくださいな…、というテキパキとしたモテナシ方に、仕出し料理で磨かれた「時間がたっても味が劣化しない料理」のあり方。
安いわけじゃなく、安く感じてもらえる商売。飲食店からのスタートじゃなく、仕出しという製造業的考え方からはじめた店という、この発送の転換にちょっと感心。よき勉強の今日のコト。

 

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