唐揚げ、とん汁、三色サンド。井泉本店で雨の昼

雨が来そうな上野のお昼。ひさしぶりに「井泉本店」に行ってみようと開店10分前に到着。お店が開店するのをまつ人たちの10人ほどの小さな行列。
お店の人が順番に注文をとっていく、ちょうどボクの順番で雨がパラッとちらつきました。お店の中から「雨は降ってる?」と女将の声。降ってきましたとの答えと同時に暖簾が下がる。
中へどうぞと入るとすでに準備万端。カウンターの角の席。左手に揚げ場、目の前では豚汁がクツクツたけてて右手に小さなまな板がある。ここのロースカツがちょうど収まるサイズのまな板、小さな包丁とすべてが必要最小限で収まるステキ。
それにしてもピカピカに磨き上げられてます。カウンターの白木は磨き上げられていてスベスベなめらか。厨房の上に貼られたステンレスには下で働く人がキレイに映り込む。ラードの甘い香りもさわやか。喉が鳴る。

一番人気はロースカツ。次はヒレとエビフライ、コロッケの盛り合わせと決まっててほとんど人がそれらをたのむ。ボクはちょっとへそ曲がりにて豚の唐揚げと豚汁、それからサンドイッチを注文します。
脂の乗った豚バラ肉を分厚く一口大に切り分けて、細切りにしたネギと一緒にザックリ揚げる。パン粉は使わず見た目はちょっとかき揚げみたい。ただ、揚げる油がラード混じりで香りはとても力強い。噛むとザクッとネギが壊れて口に散らかり、クチャっと肉が潰れてく。とてもニギヤカ、香ばしい。
ずっとたかれている豚汁に注文ごとに筒切りにしたネギを入れ、しばらく煮込んでほどよきところですくってよそおう。豚の端材はたっぷりまじりとネギのキュッキュと歯茎をくすぐるような食感、格別おいしい。

サンドイッチがやってきます。
かつサンド、たまごサンドにカニときゅうりのサンドイッチと三色揃ったここの名物。
ちなみにかつサンドという食べ物の発祥の地がこの店だという。
曰く。
芸者さんがお座敷とお座敷の間に手づかみできるとんかつを…、とできたというらしい。創業昭和5年です。当時の花街は時代の最先端をいっていたのでありましょう。
箸で切れるとんかつが謳い文句のお店です。
箸で切れるばかりかパンが歯切れる力でそのままカツまで切れる。
スパイシーで酸味がキリッと脂のくどさをひきしめるソースもおいしく、さすが元祖とウットリします。

カニときゅうりのサラダも有名。カニの風味と旨味がきゅうりにまとわりついてみずみずしくてしかもシャキシャキ歯ざわりがよい。それをたっぷりパンで挟んだサンドイッチは食感にぎやか。味わい深く、茹でた玉子を細かく刻んでぽってりさせたたまごサンドと好対照。

日本全国でサンドイッチを売りまくっている「まい泉」はここの出身。しばらくは「井泉」を名乗って商売してた。ただまい泉は事業規模を拡大することを決意して、暖簾を守るという井泉本店の考え方と相いれず、結局屋号を変える。
大きい、そして有名であるということはスゴイことで、徐々に「井泉」の歴史と「まい泉」の歴史が混同されるようになり、井泉は過去に埋没してしまうのかしら…、と思われていた時代があった。けれど大きくしすぎたまい泉は継ぐ人がなくサントリーに買収されて、一方井泉は着実に身の丈あった経営をする。
どちらのやり方が果たして人をシアワセにしやすいんだろうと思うも答えは簡単に出ず。飲食業からはじまって外食産業を経由した飲食店は、再び飲食業へと主流を変えつつあるんじゃないか。そもそも「おいしいお店」は企業経営に向いていなかったのかもしれないなぁ…、と思いさえする。なやましい。

 

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