ウェスアンダーソンの「犬ケ島」

映画を観ました。
愛すべきウェス・アンダーソン監督の「犬ケ島」というストップモーションアニメ。
街から犬を駆逐してしまおうと汚いことを平気でする街の実力者に、犬と一緒に立ち向かう少年の物語。
…、と、書いてしまうと使い古されたモチーフの、友情と勇気の物語のように聞こえてしまう。
けれどこれが一筋縄ではいかぬユニークな映画になってる。

舞台は日本です。
オープニングでいきなりドンドコ、和太鼓が鳴り響くんです。
そこでなんだかジーンときちゃう。
日本人のキャラクターは日本語をしゃべる。
それを世界に配信している…、という体で同時通訳が日本語を英語に翻訳することで物語は進行していく。
ところが犬は英語をしゃべる。
言葉だけじゃなく、街の看板、掲示物。書類などすべての文字は日本語でサイドや下に小さく英語が付け加わる。
オープニングタイトルもエンドロールに流れる人の名前もみんな、外国人はカタカナで、サイドにアルファベットという入念さ。
日本語と英語のバイリンガルのような映画で、それもこれもウェス・アンダーソン監督が日本のことが好きで好きでしょうがなく作った映画だからなのでしょう。
日本の文化や生活に対してのリスペクトがある。
ちょっとへんてこりんなところもあるけれど、あぁ、外国の人からみたらこんなふうに見えるんだろうなぁ…、って素直に受け入れることができるほど。
物語自体も一筋縄でいかない大人味。
犬を捨てるための島に自分の犬を探しに行く主人公の少年も、その目的は友情からというよりもペットとしての役目を果たさぬ犬を叱咤するため。あくまで主人とペットの関係を前提としたつながりだったりするのです。
親しい人と一緒に観て、どう感じたか、どう受け入れたかを話すを会話がとまらなくなる。しっかり泣けたりいたします。
今年一番のオキニイリ作。ただ、この監督が日本の人のためにおそらく作った作品。なのに公開劇場の数があまりに少なくて憤りさえ感じちゃう。ぜひ観てちょうだい。観ないですますのは勿体無い。ちなみに…。
オノ・ヨーコさんは英語も日本語もあんまり上手じゃないのね…、なんて思いもしました。それもよし(笑)。

コメント

  1. カオリ

    私も日曜日に観て参りました。
    近未来なのに昭和三十年代っぽい味付けがされたシュールな世界がとってもcool!大好きです。東欧のアニメにも通じるようなセンスを感じました。
    私は吹き替えで見たのですが、そうか、字幕バージョンだと犬たちは英語で喋っていたのですね。吹き替えは当然みな日本語を喋っていますので、なんで犬たちは人語ができるのだろうと訝しんでいたのですが、疑問が氷解しました。
    私は仕事で経理をしておりますので、エンドロールに「経理」と出てきて笑ってしまいました。

  2. カオリ

    連続でごめんなさい、落ち着いて考えましたら、アメリカ映画ですものね、みな英語で喋って当然ですよね。お恥ずかしいー!

    • サカキシンイチロウ

      カオリさん
      日本のために作られたアメリカ映画。
      そう考えるだけでうれしくなっちゃいました。
      アカウンティングが経理。
      ファイナンシャルが財務。
      たしかにそのとおりなんですけれど、日本の映画のエンドロールには絶対そのようには書かれない。かっこつけない直訳が逆にかっこよく思えてしまう。「外からみた日本の良さ」にいろいろ教えられるような映画でしたね。

  3. きょうちゃん

    こんばんは
    サカキさんの記事見て、めっちゃ観たくなり、
    今日早速行ってきました。
    なんとも総合的に、良かった!としか言えないくらい
    良かったです。
    ノーチェックの映画だったのです。ありがとうございます(^^)
    まだまだ日本人は、外国の方が素敵、みたいに思っちゃいがちだけど、外国の人が日本の良さをどんどん発見してくれている。英語と日本語でのエンドクレジットがなんだか嬉しかったです。
    これからはどちらがどちらではなく融合の時代だと思います。

    • サカキシンイチロウ

      きょうちゃんさん
      日本人として、こんなに日本のことを好きになってくれてありがとう…、って感謝したくなるような映画でしたよね。
      日本が好きでしょうがない人たちの気持ちを裏切らないように、ご機嫌な日本であり続けるよう頑張らなくちゃ…、って思わされました。

  4. かっち

    >日本の文化や生活に対してのリスペクトがある。
    サカキさんが仰るとおりだと思います。
    予告編を見た段階で、その情報の多さに、また2回以上劇場に足を運ぶことを確信しましたもの。

    そうそう、今回は欠席だったウィレム・デフォー出演の「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」も今日本で公開されていますが、興味深いですよ!

    • サカキシンイチロウ

      かっちさん
      フロリダプロジェクト。iPhoneで映画を撮っちゃった監督の作品。これも見ねばですね。
      実は、先週末はインド映画のバーフバリ、完結編を観てこんな長尺の映画が日本で封切られるってすごいうことだ…、って思いました。
      多彩な映画を観ることができてこその文化性。そのためにシネコンのようなスクリーンができたはずなのに、なぜだかアニメやテレビでも十分大丈夫であったはずのドラマばかりが大きなスクリーンを占有しちゃう。もったいないなぁ…、って思います。

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