よきこときくでお茶粥の昼

ひさしぶりに茶粥でも…、と「よきこときく」にやってくる。
のれんが下がる小屋根に「手斧」と「琴」と「菊」の紋。手斧がヨキで、コトとキク。「よきこときく」ですなわち「良き事聞く」の判じ物。
この店があるのは「末広通り」。寄席の末広亭があるのにちなんだ通りの名前。それにふさわしい江戸の昔の洒落をもらって店名とする。これもひとつの洒落だよなぁ…、って感心します。
それにしても「よきこときく」とグーグルさまに念じると、犬神家の一族が上位候補にやってくる。横溝正史のお家芸、見立て殺人。獄門島は屏風に描かれた俳句の見立て。悪魔の手毬唄はわらべうただったし、考えてみれば八つ墓村も「8」という数字の見立て。でもやっぱり「ヨキ・コト・キク」という犬神家の一族の見立ては秀逸。高峰三枝子さんが最期にキセルで一服つけるシーンの堂々とした様。名演でした。なつかしい。

さて本題。
本当に小さなお店です。
お店の一番奥に厨房。日本酒がズラリと並んで、カウンターは5人も座ればもう一杯。
夏の間には昼の営業を休むことが多かった。暑さに茶粥はふさわしくないというコトだったんだろうと思ってた。
でもこの月曜日。前を通りかかったら定休日にてやってはおらず、なのにお店のドアが開いてる。中を覗くと不動産業者っぽい人と何人かの若い人が説明聞きつつ写真を撮ってた。あぁ、もしかしたら…、と思うとなんだか切なくてそれで来てみた。
今日は満席。おなじみさんがついてるのなぁ…、ってしみじみ。昼のメニューは簡単でひとつは茶粥。奈良の名産。もう一種類は卵と米麹を使った雑炊。隣の人が食べていたけど、それもなかなかおいしげで、でも初心貫徹。お茶粥にする。

小鉢惣菜が用意されてる。
それをお盆にのせて見せてくれ、見ながら選ぶことができるのがうれしいもてなし。
すべてが野菜の料理です。
胡麻よごしとか酢の物だとか、あるいはおひたし、炊合せ。
作り方もシンプルで素直な仕上がり。
飾ったり、いたずらに複雑を装ったりする料理を見慣れた目にはあっけないほど単純で、でもそれがいい。
きゅうりの酢の物とかぼちゃの煮物を選んで食べる。

パリパリとした食感たのしいきゅうりの酢の物。胡麻の風味をまとわせて、酸味と緑の香りがおかゆをおいしくさせる。
かぼちゃはしっとり。砂糖は使わず出汁と醤油で煮含めた、かぼちゃ自体の甘みがひきたつやさしい仕上がり。
茶粥にもれなくついてくるのがもろみ味噌。たくわん二切れでひとそろえ。動物性のものはなく、油や脂もほとんどお膳の上にはなくて、いつも食べてる料理とまるで違った景色に、背筋がのびる。

茶粥はほとんど調味してない。お米とほうじ茶で仕上がっている。口に含むとはっとするほど味を最初は感じない。ところがしばらく舌の上で味わってるとお米の甘みやお茶の香り、かすかな塩気すらも感じてくるようになる。
味は探して感じるもので、押し付けがましいほどにおいしい料理は本当の料理じゃないのかもな…、って思いながらもろみ味噌。ほんのちょっとだけのっけて食べると、塩味、甘み、風味に香りと口の中がおどろくほどに華やかになる。それでもいつもの料理に比べれば一味、ふた味たりない味で、なのにおいしく次のひとくちが待ち遠しくなる。しみじみおいしい。
一緒に食べる惣菜も居心地よさげでホッとする。お供のお茶には生姜を搾った汁が少々。体が芯からあったまり汗をかきます。気持ち良し。

 

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