とんかつかどや

ひさしぶりに思い出のレストランで昼をたのしむ。
場所は新宿、若松町。かつて両親が住んでいた街。
歌舞伎町遊びが大好きだった父が、終の住処に選んだのがこの街で、一緒に近所の小高い丘の上に墓もたてた。そこからも歌舞伎町のネオンがきれいに見えて、「あら、あなた。死んでも寂しくないわね」なんて母にからかわれて満悦だった。
事業に失敗して家も墓も売って田舎に帰って逝った。ただボクにとって晩年の父の記憶のこの街と一緒にあって、くるとしみじみなつかしい。
そんなオヤジが好きだったのが、家の近所の「かどや」という洋食屋。寿司屋のような風情の店に、コック帽をきたご主人が立っているというのが不思議な感じ。おひさしぶり…、って座敷に座る。

炒めて仕上げるピラフがおいしい。
作りはじめると手をずっと取られてしまうから忙しいときには迷惑だからと、わざわざ時間をずらしてきてた。
人に気を使うのが苦手な父も、おいしいものを手に入れるためには、思う存分、気を使う。
今日も時間は1時過ぎ。
店の中はおもいがけずもにぎやかで、けれどそのにぎわいはご近所のお馴染みさんが酒盛り中。
来週の街のお祭りの打ち合わせで盛り上がってらっしゃった。

ジャジャッ、ジャジャッとご飯が炒まる音がしてくる。
刻んだ玉ねぎ、薄切りにした缶詰マッシュルーム。ほんのすこしのレーズンに茹でた大きなエビのぶつ切り。
ハーブソルトにブイヨンをくわえて味を整えながらジャジャッジャジャッと炒めて完成。大きなキャセロールにたっぷり入れてズッシリ重い。
パラパラなのにしっとりしてる。ブイヨンの旨味と軽いセロリの香り。パプリカっぽい甘くて切ない香りもしてきて、スベスベとした玉ねぎと一緒にご飯がちらかりにぎやか。

ポークピカタとハンバーグ。
どちらもここでのオキニイリ。これにエビフライを加えて親子3人で分け合い食べるのが大抵だった。

豚肉の筋をきれいに抜いて包丁で叩いて繊維をほぐした豚肉。
脂はきれいに落として塩と胡椒をしっかりほどこす。
粉をはたいて卵に浸し、ラード混じりの油でこんがり焼きあげる。
クチャっと潰れる肉の食感、豚肉独特の上品で繊細な旨味を卵がしっかり抱きしめ、口の中でほどける感じがオゴチソウ。
豚肉多目のパテをこんがり、表面ガリッと揚がったように強めに仕上がる。中はふっかり、どっしりとしたデミグラスソースの味はかなり古典的にてなつかしい。

ハンバーグに寄り添う目玉焼きの状態ステキ。白身はサクサク、揚がって仕上がり黄身はとろり半熟。自分の重さに耐えかねて膜を破ってお皿に滴り落ちそうな様…、艶っぽい。
ケチャップ和えのスパゲティー、千切りキャベツにキュウリにトマト。ドレッシングはパプリカ、カイエンペパーのフレンチドレッシング。野菜をおいしくしてくれる。
汁がうまいです。どっしりとした出汁、甘味抑えめの白味噌にジャガイモ、玉ねぎ、豚の端材に刻んだ豆腐。脂が浮いていないから豚汁というには上品で最初は熱々。ほかの料理を食べ終える直前に一番おいしく飲みやすくなるというのが粋なもてなし。大根、キュウリにナスに瓜。自家製のぬか漬けもおいしく気持ちがあったかになる。オキニイリ。

 

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