たかしまコーヒー店でおもうコト

徳島の朝。ホテルからちょっと歩いてたかしまコーヒー店に来る。
オキニイリの喫茶店です。
家族でやってる。
店の片隅の椅子にオジィちゃんがちょこんと座って甲子園のテレビ中継をみながら寝てる。口、半開きで気持ちよさげに閉じた目が、カキーンと球がバットに当たる音と同時に見開きしばらく観てはまた寝る。
カウンターの中の厨房では娘さん2人がコーヒー入れて料理を作る。昔はあのオジィちゃんが店を切り盛りしてたんでしょう。一生懸命番がったご褒美みたいなシアワセで穏やかな人生の黄昏。シアワセだなぁ…、ってしみじみ思う。

カウンターではおそらくおなじみの徳島マダムが少女のように足をブラブラさせながら、顎を手におき、よもやま話で盛り上がる。
たかしまさんちの居間でお茶飲みながらおしゃべりしているみたいな感じがたのしい。

カウンターの中に小さなグリドルがあって、そこで料理が作られる。
サンドイッチにハンバーガー。
とてもハイカラ。
ココで一番のオキニイリが、ハムエッグトーストでそれを選んでちょっと待つ。
まずコーヒーがやってきて、それから間もなく。料理が届く。
「お待たせしました」とかって何か言葉をかけるのでなく、ニッコリしながらボクの目を見て軽く会釈。そっと置く。
それで十分「お待たせしました」って気持ちが伝わる。いい感じ。

2枚のトーストでハムエッグを挟んだサンドイッチ状の料理。トーストもハムも玉子も同じグリドルで焼き上げていて、グリドルにいろんな料理の味や香りが染み込んでいるからなんでしょう…、ただのトーストと違ったおいしい香りがしてくる。

トースターで焼いたパンは乾いて仕上がる。けれどグリドルで焼いたパンはシットリふかふか。玉子はしっかり黄身まで熱がはいってて、白身の縁がパリッと揚がったように仕上がる。
調味料はほんの少しのケチャップだけで、あとはグリドルから染み出す油でおいしくなってる。あのグリドルじゃないとこういう味にはなってくれないんだろう…、って思ってニッコリ。こんがり焼けたハムがムチュンと歯切れる感じもおゴチソウ。
やさしい苦味のコーヒーをゴクリと飲んで、朝のお腹を目覚ましたのしむ。

ところでこの人たちは「プロ」なんだろうか…、ってちょっと思った。
おいしいコーヒーを作るプロではある。
お客様とのおつきあいを誠心誠意するプロでもある。
けれど外食産業的に定義される「経営のプロ」かというとそうじゃない。

そもそも、喫茶店という業態ははアマチュアがちょっと背伸びすれば手に届く飲食店。
だからこの人たちも、プロにならなくても十分食べていくことができたのでしょう。
むしろ経営者としての様々を知らないことでお客様の目線をなくさずやさしい営業を続けることができたとも言える。今、喫茶店のような業態が苦労をしてる。それってプロでなくては経営できないほど飲食店の環境が厳しくなってる…、ってことかもしれない。なやましい。

ここのお店の人たちは経営のプロではなかった。だから支店を作ることもできず、人も雇わず家族だけでできる営業をし続けた。
でもそれが不幸せかというと決してそうじゃないことは、ここでこうしてコーヒー飲めばすぐわかる。

プロの経営者が作るお店が最近、つまらなくてしょうがない。
売上を作り利益を搾り出すことが上手なだけのお店が多くて、新しいと言われていっても既視感満点。興奮を味わえないことにうんざりしちゃう。
プロ臭さが嫌われる。それは外食の世界ばかりでないことなのかもしれません。世界全体がみずみずしくて何がでてくるかわかないアマチュア世界に熱い視線を投げかける今。アマチュアのままでいられる装置を作りたいな…、と思うこの頃。頑張ろう。

 

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コメント

  1. koku

    流行りをどうしても後追いしたくなるのが経営者なんでしょう。モノでもコトでも「旬は、話題になった時点で最高潮、流行った時点で下り坂」と考える自分は、むしろ危機感を抱いてそこから脱することを一番に考えてしまうタチなので、何か話題になるとアチコチに雨後の竹の子が生える感覚がどうしても解りません。どう考えても行き着く先はパイの奪い合いと価格競争の末、飽きられて捨てられるだけの運命だと思うんだけど、やっぱり目先のカネが欲しいということなんでしょうね。短期で結果を出さなきゃいけない昨今の市場は飲食業界も当然巻き込まれてるわけで、こういうところにも影を落としていると感じます。市場がファスト化した今の時代、いわゆる「老舗」が新たに生まれることは、もうないんだろうなあ。

    • サカキシンイチロウ

      kokuさん
      お客様の満足と、従業員のシアワセ。
      しかもそこに利益を出すということへのこだわりに社会的責任。
      互いに相反するさまざまな要素を同時に満たしながら、しかも自分らしさを守り通す…、なんてなかなかできるものではないのだろうと思います。
      流行を追いかけるということも、そうした相反する想いの発露のひとつ。今の経営はあまりに複雑なのだろうお思うのです。

      • コグレ

        榊さんは経営するとしたらどのような飲食店を経営してみたいでしょうか?

        • サカキシンイチロウ

          コグレさん
          おなじみさんになりたいお店のイメージは次々浮かぶのです。
          けれどそうしたお店を経営したいかというと、ボクがやるべきことではないのだろうなぁ…、と思います。知りすぎてしまっていること、そしてもう無理がいかない歳になってしまったことを考えると、レストランの経営は今のボクがすべきことではないのではないか…、と。
          ただ、ひとつ。
          温めているアイディアがありまして、それは料理のプロと、料理が好きでしょうがないアマチュアの人たちがつながれる場所。それがレストランなのか学校なのか、あるいは別の器なのか。おそらくそれらすべてを一つにまとめたような場所になるのだろうと思うのですけれど、実現にむけてクリアしなくてはならないコトがとても多くて、大忙しというところです。

  2. やまもみじ

    小さなお店で、効率とか、利益とか、儲けとか、そんな空気を感じてしまうと、美味しさ楽しさが半減してしまって。一方で、料理すること、サービスすることが、楽しくてしょうがないお店では、こちらもワクワク。原価率も厳密ではなく、ただただお客様の笑顔を求めてのお店は、また訪れるようになってしまう。大きなお店、チェーン店では、なかなか難しいのでしょうが。最後は、魅力的な人、なんですよね。訪れる私たちも、ステキな人にならねばと。

    • サカキシンイチロウ

      やまもみじさん
      ほどよきサイズのお店で、ただただお客様のコトを考えて誠意をもって働けば、かならず利益がでてお店の人も幸せになれる。
      そういうお店が一番ステキなお店なんですよね。
      そして、そんなお店にウェルカムされる…、つまり選ばれ、おなじみさんとして受け入れてくれるコトがお客様にとって一番のシアワセなんだろうなぁ…、って思います。

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