おそらく最後の双葉の鰻丼
朝、新宿の箱寿司で間もなく閉店の貼り紙をみて、思い出したのが鰻の双葉。
ここも店頭にさみしい貼り紙。9月末日をもって閉店という告知。今週末から来週にかけて少々忙しくなる予定でそれで、来られるときに来ておかなくちゃ…、と、それで来てみる。
お店は静か。見るからおなじみさんといった人たちがやってきてはお店の人に「さみしくなるねぇ」って言っている。この商店街ができた頃からのお店でずっとがんばっていたんですけれど…、ってお店の人も少々さみしげ。
でもいつもどおりをいつもどおりに粛々と。いまさらセンチメンタルに浸ってもなにもかわらぬ、かわりはしない。だから食べ手のボクも粛々。いつもどおりをいつもどおりにたのしみましょう。
テーブルの上に漬物、それからきゅうりの酢の物。酢の物といっても薄切りにしたきゅうりをお酢であらって出汁を注いだだけのもの。ちょっととぼけた感じの味がお腹にやさしくうれしい。ビールを一本抜いて乾杯。ウザクをとった。
分厚い鰻の蒲焼を食べやすいよう一口大に切ったのにきゅうりの酢漬けをあわせて食べる。ねっとりとした鰻の食感をザクザク、シャクシャク、歯切れるきゅうりが引き立てる。蛇腹きゅうりのうつくしいコト。おいしいコト。ザクザクでもありシャキシャキでもあり、ときおりガリッと砕けもする。食べるところの状態できゅうりがいろんな食感になる。酸味でお腹も動き出す。
それからうまき。
淡い若草色した陶器の器。
上下が分かれる円筒形で、蓋も器も形がほとんど同じ独特。
重たい蓋をそっと開けると中にはつややかな玉子焼き。
表面ツヤツヤ、しっとりしていて芯に向かって行くにしたがいカチッと硬さをましていく。
舌にのせるとなめらかで、噛むとクチュっと歯切れて散らかる。食感独特。
芯には鰻の蒲焼です。
蒲焼のタレを注いで食べるとほんの小さな鰻の蒲焼が、口の中で大きく膨らむような感覚。玉子焼き全体が鰻のようにたのしく錯覚しながら食べる。ひと切れ器にとりわけてタレをひたひたに注いでメインのうな丼登場。
漆の塗りのお椀で到着。
黒くてツヤツヤしています。
表は黒くて内側は赤色というお椀で蓋を開けると景色が一転するのがうつくしい。
このおどろき。
中のご飯や鰻の蒲焼。タレの色。
真っ赤な塗の器がそれらをひきたてなんともおいしそう。浅めで口が大きく開いているのも独特。分厚く大きな鰻が3切れ。キレイに収まる。なんたる贅沢。
そして手触りがいいのです。
陶器と違ったなめらかさ。肌にやさしくピトッと張り付いてくるような感じさえする。中は熱々だけれども、手にはほのかにあたたかく熱さの予感だけが伝わってくる。
かつて木の器は庶民の器。陶器の器は高貴な人か金持ちだけの特権的な器だった時代があった。木をくり抜いて作るのは簡単、陶器を焼くのは難しかったからのコト。ただ陶器が量産できる今となっては、木から削り出した器はなんだか陶器のそれより上等なように感じる。オモシロイ。
ご飯をかきこむために唇つけた感じもやわらかで、ウットリします。おごちそう。もしもお店がなくなったらこの器は一体どこでどうなるんだろう。ほしいなぁ…、なんて思った。ハフハフ食べる。
それにしてもいい鰻です。脂がのって分厚くて、ねっとりとろける。炭で焼かれた香りもごちそう。夏に脂をなくした鰻に徐々に脂が乗りはじめる。涼しくなった今の季節の鰻は格別。
鰻ひと切れ、ご飯と一緒にハフハフ食べて、残しておいたうまきをご飯の上にのっける。そこに蒲焼のタレをたっぷりかけまわし、箸でかきこむ。
肝吸いの中に大根一枚。ムチュンと歯切れる鰻の肝の軽い渋みがなんともおいしく、塩の風味がどっしりとした汁をおいしくしてくれる。
東京にあって浅蒸しでしっかりとした食感のある鰻の蒲焼。カチッとかために仕上がるご飯。サラサラとして甘み控えめ、醤油の風味がおいしいタレと何をとってもボクの好みのこのうな重がしばらくしたら食べられなくなる。なんてさみしいことかしら…、と思いながらも箸を置く。満足しました、忘れまい。
・箱寿司…昨日(9/28)差し入れに三角を5本買って、閉店のお知らせを見つけ、大ショック!!
榊サンと同年代の私が20代前半の頃、三角は540円でした
三角に代わる物がないので、誰かにお店出して欲しい気持ち
・双葉…今、この頃ブログで知りました(>_<)
三角に出会った頃、仕事で疲れ果てた時のご褒美…関東風鰻の初めてのお店でした(当時も3000円代)
寂しいです
箱寿司の「三角」今は980円です
…穴子と胡瓜と干瓢だけの三角形の太巻(中巻??)
海苔の香りと甘過ぎない…閉店までに買いに行かなきゃ
経営者は同じですよ。
Jamisさん
投稿気づかず申し訳ありませんでした。
結局、閉店3日前に伺ったときにはもう売り切れでありつけず、その一週間ほど前にいただいたときには少々小さくなっていました。
独特でオキニイリの料理でしたのに、とても残念。でも思い出の中にはずっと残ってくれる料理だったと感謝します。
匿名さん
ええ、そうだったようですね。不勉強だったのですが箱寿司のお店の方から教わりました。
その顛末、日記で書かせていただきました。さらりと書き流したのでお気づきにならなかったのかもしれませんね。機会があればご覧になってください。
http://sakakishinichiro.com/wp/blog/%e7%ae%b1%e5%af%bf%e5%8f%b8%e3%81%ae%e4%b8%89%e8%a7%92%e5%b7%bb%e3%81%8d%e3%80%81%e5%ae%b6%e3%81%a7%e4%bd%9c%e3%82%8b%e3%82%a6%e3%83%8b%e3%83%8b%e3%83%a7%e3%83%83%e3%82%ad/