青柳という「かつての」ブランド

午前中の仕事を終えて、ランチの時間。伊勢丹の食堂街にやってくる。
最近、東京の百貨店はレストラン街を次々、リニューアル。規模、内容ともに充実著しくなっている。モノが売れない時間に、レストランという「コト」でまずは人を集めて他の売り場に誘導しよう…、というそういう目的があるのでしょうね。
それに比べて新宿伊勢丹のレストラン街はしばらくほとんど変わり映えがない。とはいえどこのお店も大概、いつも人気で週末なんて行列になる。なのになぜだか一店舗だけ。いつも空いてて、哀れなほどに人気のない店があって今日は理由を探る。
「青柳」というココの場所では新参者。けれどバブルの頃にはブイブイ言わせた、一世風靡の高級ブランド。徳島に本店のある料亭で、新橋にかつてあった東京店は当時、日本で一番シャンパンを売った日本料理店と有名だった。

もっとも、手広くやりすぎて殆どの店は整理され、一時はこのまま消えちゃうんじゃないかと思われていたブランドで、けれど最近、さまざまな場所で名前を聞くようになった。
かつての憧れのブランドに、安心感と期待を抱く人も少なからずあるだろうから、お金をつける人や会社もあるのでしょう。
ここもそんな感じのお店。
カウンターにテーブル席という喰い切り割烹的な姿をしていながら、カウンターの中には職人の姿はなく、カウンターの椅子が固定式で座りにくいことこの上ない。格好ばかりに、まずは残念。

松花堂弁当をたのんでみました。
他の料理は鯛茶漬けやら丼の簡単な定食に、にゅうめんと棒鮨などの組み合わせ。それで2000円を越える値段というのに、なるほどこれが青柳(笑)。
松花堂は5000円弱という値段です。
4つに仕切られた弁当箱と、弁当箱の蓋に器を並べてひと揃え。
野菜の炊合せに、マグロの赤身と鯛の刺身。そして吹き寄せ、型抜きご飯と穴子の棒鮨。
野菜の炊合せはあったかでした。ところが吹き寄せの芸術的に冷たいコトに、あぁ、作りおきってしんみりしました。注文してから10分足らずでこれだけの料理をこうして提供するのは大変で、予め作っておいたものを盛り付けるくらいの手間しかかけられないに違いない。
さつまいもの蜜煮にかまぼこ、茹でたエビ。鮭の焼いたの、出汁巻き玉子と料理さまざま。ひとつひとつの味はしっかりしています。
ただ、飛竜頭だと思って持ち上げたら、おからを煮たものだったりして、ボロボロ崩れて食べづらいのに笑ってしまう。

かまぼこに包丁を入れて、中に木の芽を忍ばせてみたり、ひなあられのような形の白い玉が、大根をくり抜いて作った玉で、噛むとシャクシャク、みずみずしかったりするのがオモシロかったり。
工夫や仕事をしっかりしていて、感心するのです。
なのにどこか、海外旅行にでる飛行機のビジネスクラスの和食弁当みたいな感じがしてしまう。
エコノミークラス以上ではある。
でもファーストクラスでは決してなくて、それがおそらく5000円以下という値段に反映されているのに違いない。
よもぎ豆腐や切り干し大根、あるいはエビのすり身の団子を落としたおすましと、良く考えられてはいるけれど、どこかとりあえず感が拭えぬ出来栄え、組み合わせ。
できることだけすればいいのに。店の名前に恥じぬ料理を提供しなくちゃいけないからというプレッシャー。けれど値段をそれほどいただくわけにもいかずなにより時間をかけずに提供しなくちゃいけない。それで化学や科学、仕組み、システムに頼ってしまう。それではファミリーレストランと同じこと。

心揺さぶるような一品があればいいんです。熱々のモノであったり、例えば鳴門から直送したばかりのブリブリの鯛の刺身であったりが、ありさえすれば、かつての青柳を知る人はウキウキできる。
もったいないなぁ…、と思いつつ、ご飯を食べると、そのご飯まで機内食の味がするよう。穴子の棒寿司も冷たくて、どうしようかと思案して、おすましの中にご飯を入れて、焼いた鮭をのっけてサラサラ、汁かけご飯をよそおい食べる。それが案外おいしくて、気持ちを若干取り戻す。
一応、全部、キレイに食べて、お勘定を払いつつ、なんでココにこの店があるんだろうか…、と改め考え、答えを結局見つけられずに帰る午後。

 

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コメント

  1. RHEIA

    お久しぶりです。

    新宿伊勢丹という一流デパートのレストラン街に、店を出す、それができるというコト……すなわち「ステイタス」なのかな、と、記事を読みつつ思いました。

    願わくば、お店が「寂しい」ことを、「高級店は予約なしでもおなじみさんが座れるもの」と勘違いしてないといいのですが。

    レストランだけじゃありませんが、世の中には食べる時のことを全く考えらていない食べ物が数多ありまして、そういうものに出会う度、「これを作った人にはお客様が食べ手じゃなくて利益にしか見えてないんだろうなぁ……」と悲しくなるものです。
    まぁその逆はたまらなく嬉しく幸せなのですけどね。

    • サカキシンイチロウ

      RHEIAさん
      このフロアには、吉兆さんが店をだしていたり、分とく山の分店があったりと、他にも高級なお店はたくさんあるのです。
      どちらも予約をしなくてはならない店で、しかも一杯。
      この店はもっと軽いニーズをということで、住み分けをしたようなのですが、「軽い食事」にも命がけで向き合う姿勢がないと、中途半端なお店になっちゃうんだと思いました。
      利益は結果生まれるもの。利益を目的にした商売は飲食店ならずとも成功するものではないと思いますネ。

  2. ワイメア

    ビジネスクラスの和食。
    昔からどのエアラインでも洋食のほうがおいしいと思うのです。
    先日JALで炊き立てとうたった白米をお茶碗で頂戴しました。
    確かに以前に比べるとはるかにおいしくなったと思います。
    だけど箱の中に綺麗に並んだそれぞれはなんだかなぁ~で、(昔と何も変わってない?)
    やっぱり洋食が良かったと思いました。
    青柳の記事はその景色を鮮明に思い出すほど興味深かったです。

    そういえば伊勢丹の食堂街のエディアールのコーヒー、
    美味しいし直ぐ座れて穴場かなと思います。

    • サカキシンイチロウ

      ワイメアさん
      エディアールはいいですネ…、あそこのサラダはボリュームたっぷりで、気が利いている。
      買い物の合間に食べる食事としてはステキな提案だろうと感じますネ。
      飛行機で提供される日本料理って、日本料理を食べ慣れた人が作っているわけではないことが多くて、だからどこかに違和感を感じてしまう。
      いろんなものをちょっとづつ揃えれば和食に見えるだろうという感覚で献立を作るのではなく、ひとつひとつをおいしくしてくれる方が食べ手としてはうれしいですよね。
      JALでは「うどんですかい」が一番おいしいかもしれない…、って思います。

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