銀座ウエストでグレングールドのトルコ行進曲を聴く
見せかけの派手とは無縁の上質なケーキが整然と並ぶショーケース。
その脇に隠れるように設えられた重たい扉。
もう何十回と訪れているのに、ドアをあける瞬間に軽い緊張感に背筋が伸びる。
お店の中に入った瞬間、あぁ、ボクは今、銀座にいるんだとウットリしちゃう。
モケット生地の張地のソファに、アイロンのピシッとかかったレースの背当て。テーブルクロスもうつくしくコーヒーのために用意された長方形の銀のトレイの上に砂糖のポットとミルクのピッチャー。
そういうものがキラキラと、空気までもが凛とりりしくひきしまってる。
朝のサンドイッチをお願いして、お供にコーヒー。金箔押しの天使が踊る純白のカップにやさしい味わいのコーヒー。お代わり自由でミルクのピッチャーはエレガントに注げるように注ぎ口に対して直角に取っ手がついている。
すべてのモノがこの贅沢な時間のために誂えられてる。そう思うだけで気持ち豊かになっていく。
ハムと卵のサンドイッチ。パンはライブレッドをトーストしてねとお願いをして作ってもらう。耳を落としてひと組を6切れにする。ハムと卵で都合12切れのサンドイッチが矢車状に盛り付けられて、その真中にパセリがひと房。
ひと切れ分がちょうど一口大というのが銀座の朝にはありがたい。
薄切りのパンはカサカサ、香ばしい。舌に乗せると焦げた香りと自然な甘み。バターの風味がじんわり広がり噛むとサクッ。それに続いて具材が口に広がっていく。
ハムはムチュンと歯切れてムッチリとした確かな食感。
レタスが一枚、みずみずしさと食感添える。
玉子サラダはポッテリなめらか。
これにも一枚。
レタスの葉っぱが挟まれて、層ぽってりとした玉子サラダのなめらかが引き立ちおいしい。
お皿の上にはスクイーザーに挟んだレモン。スクイーザーがまたピカピカで、しかも挟んだレモンは皮の黄色い部分を削いだ白肌レモン。皮に含まれた油や苦味がレモンの酸味に混じらぬようにという心配りがありがたい。
ぼんやりしてると、グレングールドが演奏するトルコ行進曲が流れてくる。好きなんです。モーツアルトが指定した軽やかなテンポではなく、ゆっくり、そして力強い弾き方が襲ってくる不安に負けないように勇気をふりしぼって戦地に向かう兵隊さんをイメージさせる。
生きていくって必死のことなんだよなぁって涙が出てくる。
タナカくんが逝って司法解剖やらいろいろあって、葬儀までに10日ほどかかってしまった。葬祭場でお別れを言うまで顔を見ることもできなくて、途中葬儀社の担当の方から「お髭はどうしましょう」って連絡があった。
髭があるのが彼らしいからそのままにしておいてくださいってお願いし、お別れのとき。いつも短く刈り上げていた髭がまるで仙人髭のように伸びてて、それが「オレはまだ生きていたいんだ」って必死に叫んでいるように見えた。
ボクはそのとき初めて声を上げて泣いたんだと、思い返してしんみりしました。まもなくそれから9ヶ月。
もうすぐ9か月ですか。
まだまだ生々しい記憶で、お辛いですよね。
私は母の臨終の時も亡くなってからも、グールドのゴルトベルクを繰り返し聴いてました。
今でも音楽に救われたなあと思えることが度々あります。
ヨウコさん
同じ音楽でも一緒に聞いて口ずさんでいた歌はあまりに思い出が重くて辛くなっちゃいます。
クラシックっていいですね。
プレイリストを大幅に変更しちゃいました。
サカキさん
いつも読んでいます。
生きているってすごいことなんですね。
サカキさんのブログからは沢山のことを学びます。ありがとうございます。大きな愛を送ります
あおあおさん
どんなことがあっても、生きているということはそれだけで素晴らしいことだとしみじみ思います。
いつもありがとうございます。これからもますますよろしく。
おはようございます。
先週、ちょうど「ウエスト」さんと「はしご」さんを訪ねたところでした。在宅勤務が増えましたが、出社する際は、一人でサクッと好きなお店に伺うようにしています。
以前「ウエスト」の代表の方にお話を伺った時に「良い食材を適正価格で提供しようと思ったら、飲食業で大きな儲けなど期待できない」という趣旨のことをおっしゃっていました。サカキさんが考えていらっしゃる”これから”と通じるところがあるのかな? と想像したりしています。
RYOさん
「適正価格」という部分が国や地域、時代によって変わるのだろうと思うのですネ。
日本は本当に貧しくなりました。
だから「おいしい」を追求していくことはどんどんむつかしくなっていくのでしょうネ。なやましいです。