銀座の空の下、天国のレモンケーキを食べる。
銀座で行ってみたかった店がある。
「月光荘サロン月のはなれ」というお店。
月光荘という画材屋さんがやっている。彼は一時期、月光荘のお絵かきセットをいつも持って、いくとこいくとこで料理の絵を書いていたことがある。家に帰ってそのスケッチをもとに絵を描き上げていくのだけれど、その絵があまりにおいしそうでお腹が空いて困っちゃうねぇ…、なんていって笑ってた。
その月光荘の別館ビルの最上階にカフェができた。
クレオール料理と音楽。屋上テラスがあって夜は個性的なワインがたのしめる。行ってみたいなぁ…、と思う以上に多分、彼の好きな店だろうなと思ってウェブサイトを見せたら行ってみようよってことになった。
でも行ってみたらエレベーターがない。
5階まで狭い階段を上がらなくちゃいけないってわかって、膿んだ足を引きずってでは無理と断念。そのまま行かずじまいになっちゃった。
「今日は無理だね」って言ったときの、寂しそうな表情を今でも忘れることができない。上がってみます。
よいしょ、よいしょと手すりをつたってゆっくり上がると、4階のちょっと手前に「あと23段」って書かれた張り紙。一階にはインターフォンが置かれてて空席があるかどうかを確かめることができるようになっているのがやさしい気配り。
今だったらヒョヒョイのヒョイってひとっ飛びで来られたのにネ…。
そう思いながらおじさん階段をゼイゼイしながら5階まで。暗い階段に慣れた目に、まぶしいほどに明るい屋上。
パーッと視界が広がります。奥に小さな小屋があり突き当りにバーカウンター。小屋の前には小さな庭のようになってて、ガーデンテーブルと椅子がいくつか置かれてる。
銀座じゃないなぁ…、空気が軽い。
どこか高原のリゾートのテラスに座っているような気持ちがしてくる。
バーの方からロマな感じのエキゾチックな音楽が流れてきて、好きだっただろうなぁ…、この雰囲気。アイスラテをまずもらい、お供に「月のレモンケーキ」を焼いてもらった。ウェブサイトにおいしそうな写真で紹介されていて、これを絶対食べようね…、って話をしてた人気の料理。
注文ごとに焼き上げるから時間はかかる。
のんびり待った。
テーブルの上に木の葉が影を落として涼しい。
スッキリとしたビターなエスプレッソがミルクの上に浮かんで漂う。
グラスに口つけ直接飲むと、思った以上に苦くてびっくり。
お腹の中がブルッと震えて目が覚めた。
そしたらネ…、風が吹いたよ。木の葉を揺らしてボクの首筋をやさしく撫でる。それからずっと葉っぱが細かく揺れる様子が、枝が笑ってるみたいに見えて、つられて笑って泣いちゃった。
三日月の形のレモンケーキ。ホイップクリームにミント葉っぱ。はちみつ、それからパッションフルーツのジャムがお供についてくる。
手にしてみると案外ずっしり重たくて、まだ熱々。端っこを割るとザクッとまるでサブレが砕けたみたいな硬さを感じる。軽いクッキー生地がぽってりとしたスポンジ生地と一緒に焼けているような、不思議な食感。生地そのものはザクッとまるでポレンタのよう。
サクッとしててふっくらしてて、軽くとろけて消えていく。
ちょっと胡椒のようなスパイシーな香りがあって、何?って聞いたらレモンピールを混ぜているからその苦味と香ばしさが香りを独特にしてるんでしょう…、って。
そしておいしい。レモンの香りと酸味にほのかな甘み。特にパッションフルーツのジャムと一緒に食べるとウットリするほどシアワセな味。天国の食べ物ってこんな感じなんじゃないか…、って一口食べて涙が止まらなくなっちゃった。
なんでこんなに今日は気持ちがざわつくんだろう…、って思ってじっくり考えたら、彼を亡くして100日目。
銀座にこんなにも穏やかなお店があるとは!
レモンケーキ、今日の気候にぴったりですね。
テーブルにやわらかく落ちる木漏れ日や、木々のあざやかな色あいもすてきです。
なんだかサカキさんの大切な方もこんな雰囲気だったのかなあ…と勝手に思ってしまいました(的外れでしたらすみません…)。
ごんたさん
のんびりした人でしたよ。
急がない。焦らない。なるようになるさっていつもニコニコしている人。
仕事がうまくいかなかったり、お金に困ったりしたときも彼がいてくれるとなんとかなるような気持ちになったものです。
07/27
ベルクの記事のコメント、気づいて
匿名さん
ご指摘ありがとうございます。たまたまその前後にコメントが集中して見逃しておりました。先程、コメントを頂戴したあーたさんには返事をしておきました。
CRESCENT MOON。甘くて切ない悲しい思い出。なのにおいしいケーキ。登るのに大変だったビルの上に彼のナゴリ。でも、よい一日でしたね。
ナリヒトさん
本当に体がゾワゾワしました。今までこれほど気配を感じたことはなかった。いろんな意味でいいお昼でした。
僕も大切な人をなくしました。明治の最後の年の生まれで北海道を母と一緒に恩人の方の助手をしながら医療に従事していました。その父が50歳位で糖尿病由来の脳血管障害おまけに右足の切断に至りました。 他県のとこから私が山でそうなんしかかるとそばに来て声をかけていました。生きている人でさえそうですから、あなたの愛する大切な人に早く新しい幸せを見つけてほしいときっとあなたのそばで一緒にご馳走を楽しんでいるはずです。コロナのこの頃の事ですからお気をつけくださいね。
ナリヒトさん
別れはくるとわかっていても、悲しくさみしいものですね。
きっとご伴侶が「僕はいつも一緒にいるよ、見えないかもしれないけど」と仰っていたのでは、と—。
美味しいレモンケーキも、きっとご一緒に味わっていらした様な気がします—。
(サカキさん、ボルテイモアから、ビッグハグを送ります!)
ボルテイモアのおかずさん
食べたかったろうなぁ…、と思ってひとかけ残して帰りました。まだまだ気持ちが落ち着かず、なんでこんなことになったんだろうといろんなことを思い出します。それも供養のひとつと思って、しばらく涙に溺れます。
私の彼も食いしん坊。に加えて大酒飲み。
年齢的にはまだ若い。とはいえ、このままだと未来を思うと不安も多く、厳しくしたいところ。
一度きりの人生、若いからと、今は自由を見守っておりますが。
今日のお話はちょっと考えさせられました。
ふぐざるさん
ボクも彼には甘々でした。
仕事が旨く行かず、引きこもり気味で楽しみといえばおいしいものを食べること。だから本当は食べるものや飲むことに気を配らなくちゃいけなかったはずなのに、彼のためと思って目をつぶっていました。今となってはそれが悔しくてしょうがなく、厳しくすべきところは厳しくするべきだったなぁ…、と後悔しています。
サカキさん、色々な意味でびっくりしました(笑)!
ベルグの記事へのコメント、ありがとうございます。
あーたさん
ひさしぶりの匿名さんからのコメントにびっくりしました(笑)。
サカキシンイチロウさま、こんにちは。
きっと、サカキさんと一緒に、お茶をあがって、笑っておいでになったのではないかと、願っています。
サカキさんと一緒に、召し上がって、美味しいねって、笑いたかった、って。
約束していて、いけなかったところに、サカキさんにいって、笑ってほしいと、願っている、優しい魂の方ではないでしょうか。
急に暑くなりました。おきをつけて。
東京Juneさん
笑顔のかわいらしい人でした。
だからボクも一緒に笑おうと思っているのですけれど、なかなか笑顔になれません。ごめんね、って空に向かって泣きながら、レモンケーキを食べました。