野毛おでん

横浜で友人と合流。おでんを食べる。
野毛という街。飲食店と動物園のある歓楽街…、といえばまるで上野のように聞こえる。しかも野毛山を中心にひらけ、その山に公園や動物園があるという、構造的にも上野的な街。ただ港が近く、駅に背中をむけてしまってちょっと萎れてうらさびれちゃった。それ故、昔が色濃く残っていたりする。
「野毛おでん」という店が目当てです。
もう100年以上の歴史がある。もともとは港で働く人たちや船員さんの冷えた体をあっためようと、おでん屋台からはじまった店。
昔、逗子に住んでいた頃、通学、通勤途中にあった横浜は身近な街で、そのときたまにやってきていた。おでんなんて家で作って食べるもの…、って思っていた若造にとっては結構敷居が高く、大人になるための訓練をさせてもらった店でもあります。

昼のメニューは定食だけ。
おでん定食、刺身定食、煮魚定食、焼き魚定食とずっと変わらずこの4種類。
お店が近づいてくるにしたがっておでんがたける美味しい匂いが漂ってきて、のれんをくぐるとおいしい香りが湯気と一緒におそってくる。
店の奥には大きな厨房。前にカウンターがあってそこで、おでんのコトをあれこれ教えてもらったものです。

テーブルにつき、さて注文。
おでん定食を選んでたのむ。
おでんは既に炊けていますから、テキパキすぐにテーブルの上に料理が揃う。
大きな茶碗に茶飯がドンッ。
蓋したお椀の中には汁。メインのおでんは大根、玉子、はんぺん、豆腐にちくわぶ。このちくわぶという奴をはじめて目にしたときの面妖感。そして食べた時の、これは一体何物か感を今でも鮮明に思い出す。形は竹輪で、けれどデンプン。頭の中が混乱し、関東のおでんやって怖いところ…、って思ったものです。今ではすっかりオキニイリ。
そう言えば、はんぺんという食べ物もボクが育った田舎にはなく、初めて食べたときにはビックリ。でもちくわぶと違った「なんて儚く旨いんだろう」ってビックリだった。いまもそう。

それにしても真っ黒な出汁。見た目はとても辛く感じる。
ところが不思議なほどにやさしい味わい。
ゴクゴク飲めてしまえるほどで、けれどかつお節や昆布の風味に醤油のコクはしっかり感じる。
それ以外にもおそらくおでんのタネから滲んだいろんな味が混ざってまさに渾然一体。
大根なんてコトコト炊かれて表面しわしわ。ちょっと縮んで割ると中まで汁の色。噛むとジュワッと口いっぱいに煮汁の旨みが広がりなんともみずみずしい。
玉子は生の状態で、殻ごと出汁に数日浸す。玉子は殻を通して息をしてるから、その段階で味が黄身まで浸透し、それを炊いて仕上げるんだと聞いたことがある。
だから白身がプルンとなめらか。黄身はしっとり、とろけるようでどこを食べても味がしっかりついている。ひさしぶりです、ウットリします。
豆腐は水気が抜けて仕上がる。表面は汁の色がついているのに、断面みると豆腐色。だから豆腐の香りや旨みはそのままに、出汁でコクがついてるという見事な出来栄え。

それを茶飯の上にのっけて、豆飯風にしてたのしんだ。豆飯にするには少々、豆腐の味がおだやかで、けれど茶飯が本当においしい。出汁で炊いたご飯でしかもパラパラ固め。だから大根だったり豆腐だったり、汁をたっぷり含んだおでんと一緒に食べると一層美味しい。
友人は煮魚定食を選んでたのんだ。黒鯛をこれまたどっしり味の汁で煮込んだ上棟時で、これにもおでん。大根とタコ天がつきおでん屋さんのランチの定食らしさを装う。
汁はしじみの濃厚味。サイドにご飯のお供がいくつかついて、例えば大根の葉っぱを刻んで出汁とごま油で炒めたもの。ココの大根は皮を分厚く剥いて炊く。だから剥いた部分を細く刻み、出汁でサックリ炊いたものとか、始末な料理でニッコリします。
食後の甘味のかわりにと缶詰みかんがついてくるのも昔ながらでオゴチソウ。

 

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