良きサービスは聞く力と叶える力から…。

ひさしぶりにきっちりとした朝食をと帝国ホテルのパークサイドダイナー。
料理もさることながら、お客様の気持ちをくんで誂える、上等なサービスを味わいたくてここを選んだ。

ボクはサービスの種類を、エアラインのクラス別のサービスに例えて説明することがある。
彼らはどんなお客様にも「いい」サービスを提供することを目指して仕組みを組み立てる。それぞれのクラスに対して「最適化」されたサービスを徹底的に守るのです。
まずエコノミークラスのサービス。
それは最小限の手間でお客様を怒らせないよう仕組みする。
選択肢は最小限だし本来別々に提供されるべきいくつかのサービスをまとめて提供するというような工夫がなされることになる。

ビジネスクラスになると、サービスする人たちができうる限り良いサービスだと思うサービスを提供する。本来あるべきサービスは出来うる限り省略されず、時間をかけて丁寧に。用意される選択肢の幅も広がる。サービスを受ける側も「あぁ、いいサービスを受けられている」と実感できる。

ならばファーストクラスのサービスは、ビジネスクラスのそれの分量と密度を高めたものかというと、決してそうではないのが大切なとこ。
ビジネスクラスのサービスはたしかによいサービスではあるけれどサービスする側の基準を結局、お客様におしつけることになる。
けれどファーストクラスでは「お客様の基準に合わせる」ことがよいサービスの基本となる。食事を早くすませたいから一度に全部持ってきて…、と言われればそうしなくてはならないし、今じゃなくて2時間後に食事をはじめたいのだけれどと言われれば、それに合わせる努力をする。

今、日本の外食産業にはビジネスクラス的よいサービスが溢れてて、特にサービスが良いを売り物にしているお店であればあるほどお客様の気持ちを置き去り、自分たちが考えたよいサービスを押し付け悦に入っている。

良いサービスは伝える力が作り出す。
けれど「とても良いサービス」は聞く力から生まれるのです。
お客様のためといいながら、聞く耳持たぬ若造っぽいムードに辟易したときに、デトックスをかねてくるのがこういう場所。
お客様とお店の人の共同作業でおいしい時間が作り出されるステキなお店…、というわけです。

アメリカンブレックファストを基本に朝の食事を組み立てました。
アメリカンブレックファストには好みのジュース、玉子2個を好みに焼いてもらって、ベーコン、ハム、ソーセージの中からひとつ選んでサイドに添える。
3種類のパンからひとつ、コーヒーか紅茶を選んでひと揃えという、世界中、どこにおいてもそうすることが決まっている枯れたメニューです。でもボクはちょっとわがままをいう。他の人と違ったボクの食べたいアメリカンブレックファストを作ってもらいたくて注文つける。

ジュースはオレンジジュース。
ハーフカットのグレープフルーツを追加で頂戴いたしましょう。
卵は一個。
オーバーウェルでクリスピーベーコンに、ハムをソテしてサイドに追加で添えてください。
パンは薄切り、よく焼きで…、と。
すると次々、お店の人がそれに対して質問します。
ベーコンは薄くクリスピーなのか、分厚くよく焼きなのか。ハムは通常、2枚で一人前なのですが、それで良いのか。それからバターで焼いていますが、なにか好みの焼き方はあるのかどうか。
パンは通常の厚さのイギリスパンを2枚に切るので良いのかどうか。そしてそのよく焼き加減は私どもにお任せいただけるものかどうか…、と。

あぁ、うれしい。こういうサービスがうれしいサービス。
ハムはドライな状態で表面だけを焼いてもらいたい。ベーコンは薄切りのものをサクサクに、トーストに関してはお任せしましょう…、とにかく前歯がくすぐったくなるようなトーストを食べたいのですと答えます。
承知しました、少々、お時間頂戴しますがよろしゅうございますでしょうか…、というから「時間は十分ございます」と答えてコーヒーをゆっくり飲んだ。

やってきた料理のどれも期待通りであることにうっとりします。
注文を取った人が責任をもって持ってくる。持ってきて、これで良いかと確認をする。パンに至っては、これ以上焼きますとパンの持ち味を壊してしまう恐れがあって、もしかしたら満足いただけないかもしれませんが…、と恐縮しながら。空気がほとんど蒸発し、カサカサ前歯をくすぐる食感、焦げた小麦の香りも完璧。ドライに焼いたハムを挟んでサンドイッチにして味わうと、この上もないご馳走でした。

そうそう、一番最初にやってきたグレープフルーツ。ハーフカットの上に3房、皮をキレイに剥いたグレープフルーツがのっかってくる。甘い、酸味程よく苦味はやさしい。しかもハーフカットの実はみずみずしくジュースがたっぷり残るほど。
このみずみずしい状態のグレープフルーツを選んで作っているのかというと実は、一個丸ごと使って作る。ハーフカットの上に残り半分を搾ればどんなグレープフルーツもみずみずしくてジューシーになる。ロイヤルホストの創業者氏もおどろき、感心したという粋なもてなし。
ちなみにあれを追加してこれをこうしてとワガママを言いましたけど、ハムの追加分は玉子一個とパン一枚を節約した分で相殺しました…、とうれしい配慮。堪能しました、オキニイリ。

 

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コメント

  1. koku

    骨太のブログ、拝見しました。重要な示唆が含まれていると思いました。すなわち、聞く力とは受け取る力であり、かつ的確に相手に返す力であることで、それは双方になければ機能しない。
    つまり、聞く力は「客の方にこそ必要」ということです。

    オーダーを聞いてスタッフが次々に質問を投げるということは、このお客は「聞く力=サービスを受ける力」があると思ったからでしょう。そうじゃなければ質問を投げません。
    テニスでどんなに素晴らしいサービスを打っても、相手に打ち返す技量がなければスルーされるか、最悪逆ギレされるだけ。

    ビジネスクラス的な飲食店が大半になってしまった背景には、サービスを一方的な押し付けと同義だと思っている店がいかに多いか(これはつまり、高級店に多い慇懃無礼を絵に描いたような上から目線の店はあくまで「最上級のビジネスクラス」であって、ファーストクラスではないということでもあります)ということでもあり、
    それ以上に、客に聞く力が絶望的なまでに欠けているからこそ、そういう店が増えてしまった(つまり店側が諦めた)ということではないだろうかと思いました。自戒をこめて。

    • サカキシンイチロウ サカキシンイチロウ

      kokuさん
      おっしゃる通りと思います。
      この日、ボクのテーブルを担当してくれたスタッフが最後に「今日はよいサービスをさせていただきました」と謝意を伝えに来てくれた。
      よきサービスはお店の人とお客様との共同作業によって出来上がるものなんだなぁ…、としみじみ感じ入りました。

  2. M

    特に、しばらくアメリカに行って帰ってくるといつもストレスに感じます…。

    あちらだと、高級ホテルでなくとも、ダイナーの朝食だろうと、デリのランチだろうと、普通に気持ち良く色々やってもらえますよね。
    「ベーグルのクリームチーズは抜いて、コーヒーはディキャフにソイミルクで、サラダのドレッシングはヴィネグレットに変えて、絶対上に掛けないで必ず別添えにして」など一人につきそれくらいの注文は普通で(笑)。

    冷え性なので、夏に冷たいドリンクを頼んでも氷は抜いてもらうのですが。

    日本では、それだけでも嫌な顔をされる事が多いです。

    何か食材を足す注文でも、特別手間がかかる注文でもなく、抜くだけなのに何故だろう?と思ってました。

    イレギュラーな事を言われるのがもうマニュアルから外れるから困った顔になっちゃうのかな?あるいは半端な温度のものを提供するのがプライド的に嫌な店もあるのかな?とか自分なりに解釈してました。

    ある日、やはり氷抜きをお願いしたら、若い男性店員さんの表情が急変しイライラ吐き捨てるような口調で(侮蔑と言うか軽い嘲笑すら含んだニュアンスで)「氷減らしても、その分、ドリンクの量、増えませんからね?いいですね?」と言ったので、もう唖然としてショックで返事もできませんでした…。

    まさか、日本の店員さん達が氷抜きを頼む客に「チッ、この客もまたドリンクの量を少し増やそうというケチな魂胆か」と思いながら顔を曇らせているとは思いませんでした。

    これからの時代、ますますすそういう店員さんが増えるのかしらと思うと夏に外食で飲み物を頼むのも憂鬱です。

    (ファミリー層の多い地域の女性店員さんだと、子供用に氷抜きを頼む親も多いようで慣れた笑顔で気持ち良く対応してくれる率が高い気がします。あとスターバックスもその辺りは流石ですよね)

    昔ながらの個人店は色々融通がきく所も多いですが、それ以外は「少しでもメニュー以外の事を言うイコール面倒臭い客」と思われてるようで悲しくなりますし、「おもてなしが素晴らしい国」と最近自画自賛してるのはどこだろう?と思っちゃいます。。

    • サカキシンイチロウ サカキシンイチロウ

      Mさん
      面倒くさいという表情。
      ボクもよく出会います。しかもそのとき「あぁ、申し訳ないことをしてしまった」と反省してしまう…、それが今の日本のサービス業のムードなのかもしれません。
      無理難題を押し付けるモンスターゲストと呼ばれる人たちが多くなったのもたしか。自分の好みを伝えることがモンスターゲストと同レベルで受け止められてしまうんだろうなぁ…、でも氷を抜くことくらいは当たり前だと思って対応しようよって思いますよね。
      この日、ボクの隣に座ったおそらくインドからのビジネスマン。オレンジジュースは手絞りか、ヨーグルトはローファットか、もしオーガニックヨーグルトがあればそれにフルーツカクテルをいくつかのっけてくれないか…、とオーダーにたっぷりの時間をかけていらっしゃった。でもそれが当然なんだろうなぁ…、食べたくないものを食べさされて嫌な思いをしないように。お店の人にとっても、期待はずれにならないようにお客様の期待を徹底的に聞く。そういう姿勢が大切なんだと思います。

  3. Diana

    私も冷たすぎるドリンクは苦手なので、氷抜きをお願いしたら、「氷の分、量が少なくなりますがいいですか?」と聞かれたことがあります。
    その時は、『氷が入っているときと同じ量じゃない!』とクレームをつけられたことがあった?とぼや~~~と思ったぐらいで気にしておりませんでした。もしかしたら、その店員さんは量が少ないと言いがかりをつけられたことがあるのかもしれませんね。悲しいことです。
    以後、「お手数をかけてすいませんが、ゴクゴク飲みたいので、氷抜きでお願いします」とか「お手間を取らせてすいません。冷たいと歯に沁みるので氷抜きでお願いします」と言うようにしました。お店の方も納得して、さくっと対応してくださいます。
    嘘も方便。お試し下さい。

    また、サカキさんのブログを詠むようになってから、最初にエクスキューズを入れることでお店の方が『聞く耳の準備』が出来ることがよくわかりました。
    『お忙しいところすいませんが』とか『お手数をお掛けしてすいませんが』と一言いうと、相手も『何か特別なことを依頼してくるんだな』と心構えが出来るようで、今のところ不愉快な対応にあったことはございません。。
    その後、重ねて『お手数をお掛けしてすいません。ありがとうございます。』等と付け加えれば、ほとんどの方が『大丈夫ですよ』と笑顔で返してくださいます。

    エスカレーターの歩く側が関東と関西で違う理由に、『関東は立つのが標準、関西は歩くのが標準。左側を標準としているから、関東は右を歩き、関西は左を歩く」という説がありました。
    目から鱗、というか、物凄く納得しました。

    アメリカではカスタマイズするのが標準、日本ではカスタマイズしないのが標準、と考えれば、お願いの仕方が見えてきます。
    『少しでもメニュー以外のことを言うイコール面倒臭いけど感じがよくて、サービスをさせた気にさせる客とか、新しいニーズを気づかせてくれる客』になりましょうよ。

    • サカキシンイチロウ サカキシンイチロウ

      Dianaさん
      自分の好みを伝えるあたっての最初の一言、あるいは最初の態度が大切なんだろうなぁ…、と最近、しみじみ思います。
      自分の要望を伝えることからはじめると「厄介な客が来た」という表情をされることがよくあって、そういうときはたいてい相手の顔をみていないとき。言葉の前にまず眼と眼を合わせてニッコリとする。私はあなたに対して敵意をもっているわけじゃない…、という表現。笑顔で相手の心をノックすることが大切なんだろうとも思いました。

  4. マンダリン

    榊さんの「ボクの食べたいアメリカンブレックファスト」に同感です。自宅で食べるものに近い洋朝食を外でも食べたいとお願いできそうな所ではリクエストを出しています。私はジュースは要らない派、フルーツ盛り合わせが好きで、バナナにはヨーグルト。卵は一つでパンは厚めのトーストとデニッシュと我儘です。
     その昔、ロイヤルホストの朝食でグレープフルーツを出していました。場所は熊本のホテル併設の店でしたが、何回か利用した後で値段にシールが張られメニューから消えてしまい残念に思いました。
     氷の話、中にジュースよりも単価の高いカクテルに氷を入れる店もありますよね!まあ、コストダウンとか早く飲めと言うよりも流儀なんでしょうが!

    • サカキシンイチロウ サカキシンイチロウ

      マンダリンさん
      ロイヤルホストの朝食は、かつてホテルのコーヒーショップを遥かにしのぐ上等なものであった時代がありました。なにしろパンケーキは帝国ホテルのコーヒーショップ直伝のものだったし、グレープフルーツをいかにおいしく提供するか命がけになっていたほど。
      人手不足の中、サービスがどんどん省略されるうえ、料理までもが痩せていく。日本が貧しくなってしまった象徴のような出来事です。

  5. ボルテイモアのおかず

    横から失礼させて下さい。
    Dianaさんに同感です。国民性や民族性の違いってありますね(アメリカでも中近東のお店の方はニコニコせず、ちょっと怖い感じがしたりします)。
    あと考えたのですが、チップの有無は大きいのではないでしょうか?私達もちょっと余分にお願いした時は、多めに払いますし。自分のサービスが収入に数字で見られるのは、努力する甲斐もあるのかなあ、と(私自身は計算が面倒で、日本のチップ無しが有難いですが)。
    それから、食べ始めた後で必ず「いかがですか?」と尋ねられるのですが、このサービスも日本はしないですね(時々タイミングが悪く、スパゲテイをくわえて「サンキュー、デリシャス」なんて事もありますが)。

    • サカキシンイチロウ サカキシンイチロウ

      ボルティモアのおかずさん
      サービスの目的は一体何なのか…、というコトが究極の問題なのじゃないかと思います。
      注文をとったり料理を運んだりすることがサービスの目的じゃなく、お客様が満足していただくことがサービスも目的。だとしたら、お客様がどのように満足したいのかを聞くことがサービスのはじまりだし、お客様が満足しているかどうか、食事が終わってお店を出るまで期にかけることも仕事のうち。
      この「気にかける」というコトが今の日本にはかけているように感じます。

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