移転・再開・長崎飯園

昔、秋葉原に「長崎飯園」というお店があった。
長崎出身のおじぃちゃんとおばぁちゃまがやってる小さな店で、メニューの種類は控え目。ちゃんぽんや皿うどんがおいしいというのでランチタイムは連日行列。
飛び切り特別というわけじゃない。
ちょっと探せばもっとおいしいお店はいくつも見つかる
けれど長崎ならば普通に食べられるであろう料理が、いつも普通にたのしめた。
地方の料理が東京という離れた場所にあって「普通においしい」というのは稀なこと。東京という刺激に溢れる都会で商売を続けていると、もっとお客様から褒めてもらおうと工夫をしちゃう。どんどんおいしくしていって、観光地の料理のようになっちゃうことが普通に起こる。
だからこの店の「低刺激だけれどおいしい」…、つまり毎日食べても飽きない料理が東京で生き残ることはむつかしく、だからずっとこのままでいてほしいなぁ…、と思って通ってた。
それが数年前に閉店。お店があった場所の再開発が理由で「いつかどこかで再びお目にかかりましょう」という貼り紙を残してお店はなくなった。その「いつかどこか」が現実になったのが数ヶ月前。場所は神田の駅からほど近く。ぼんやりとした路地裏の路面店。

再開の場が再開発後のビルの中でなく、飲食ビルの中でもなかったということにまずホッとする。
お店の中に入るとほどよく小さく、場所は変わってもあのおじぃちゃんとおばぁちゃまがそこにいる。テーブルの上にキレイに磨かれキラキラしている調味料。
金蝶ソースも健在でした。
テーブルも昔のままに思えて、そうなんですか?って聞いたら、お店が小さかったから昔のものは入らなかった。だから誂え。この場所もなかなか見つからなくてイライラしてたこともあるんですよ。何しろ一日も早く働きたいからとあの人がイライラするものですから…、と。ステキなコトです、背筋が伸びる。

ビールをたのむと柿ピーがお通しでつく。ザーサイを肴にグビッと飲むとなんだか気持ちがホッとする。
立ち退きで一度閉店した店が再開されることが最近とても少ない。飲食店は場所に根ざした商売だから場所が変えても成功し続けることはむつかしく、しかもご高齢の方がやってらっしゃるお店です。今日は若い女性スタッフが影武者のように二人を助けて店の空気はとてもスムーズ。いいなと思う。
まずは一品。焼き餃子と鶏の唐揚げ。薄い皮で野菜のあんをたっぷりくるんで表面パリッと焼き上げる。生地の中の空気が膨らみ表面パンパンで、噛むとさくっと歯切れて中からジュースがジュワッ。柚子胡椒を溶かした酢醤油でハフハフ味わう。
ぶつ切りにした鶏もも肉を粉とスープに揉み込んでさっくり揚げたフリッタみたいな仕上がりでサクサク、やわらか。千切りキャベツもザクザク旨い。

夜は静かです。ぽつりぽつりとお客様がくる。
厨房の中のおじぃちゃんの料理づくりはマイペース。
ひとつひとつ丁寧に料理を作っていくから時間がかかる。
厨房の中から聞こえてくるジャーッであるとか、カシャカシャであるとか料理ができる美味しい音を聞きながら料理を待つのも乙なもの。
メインがそろそろやってくる。

まずは「牛肉玉子飯」。オイスターソース味に整えた牛肉炒めを玉子と一緒に炒めて、ご飯の上にかけ回す。大量の油をすわせて仕上げているのでしょう、玉子がツヤツヤしてみえる。玉子はトロトロ。半熟たまごかけごはんのような姿が独特。
それに続いて「太麺皿うどん」。パリパリの細麺ではなく、蒸したちゃんぽん麺の上にあんかけ。よくかき混ぜるとあんがみずみずしさを取り戻し良く煮込んだちゃんぽんのような食感、味わいがある。

どちらもやさしい味わいです。鶏や豚の旨みスープが玉子やあんの中にしっかりとじこめられて味わい濃厚ではあるけれど、味の輪郭がぼんやりしてる。すべての味が溶け合って「何の味?」って言われると「ただただおいしい」という他ない味。
最初はトロトロだったご飯の上の玉子が熱々ご飯の蒸気でむらされ固まっていく。ご飯と上具がその段階で一体となり、口にふくむとやさしくとろける。
もやしにキャベツ、豚ひき肉に細かく切ったかまぼこ、イカに竹輪にアサリにエビとすべての具材があんの中に溶け出し味が整う皿うどん。麺はやわらか。あんと完全に一体となりとろけるおいしさ。多分すぐお腹が空いてくれるだろうなぁ…、って思うおいしさ、ありがたい。
金蝶ソースをかけまわしスパイシーな風味と酸味で味をくっきりさせて味わう。麺を食べては玉子の旨みを吸い込んだご飯をパクリ。おばぁちゃまとのよもやま話でお腹も気持ちも満たされる。

 

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コメント

  1. comfort

    東京のど真ん中で“ごく普通”の店を長年続けている事、凄いです。
    こんな店が近くにあったら通い詰める事でしょう。
    「銀座吉宗」と「長崎飯園 」で皿うどんを食べ比べするのも楽しそうかも。
    因みに私は「皿うどん(硬い麺)」は、最初に「プレーン(そのまま)」次に「金蝶ソースをかけて」最後に「酢をかけて」頂きます。

    • サカキシンイチロウ サカキシンイチロウ

      comfortさん
      東京のような街では「成功」することよりも「継続」することのほうが大切で難しい。流されることなく、影響されることなく、欲張ることもなくただただ続けていくことってスゴイなぁ…、って思いますよね。
      おっしゃるように、吉宗と長崎飯園の皿うどんを同時に食べることができたらどんなにステキでしょう。ちょっと観光地っぽい味がする吉宗。よりご家庭風の長崎飯園。どちらも本物。最後にお酢をかけることはまだ経験がなく、次回は試してみようと思いました。

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