生のひやむぎ、夏の味

今日も暑くてちょっと歩くと汗が噴く。新宿で仕事をすませて、それでも運動しなくちゃと家まで歩いて帰ることにする。途中一回、新しくできたスタバでアイスラテのトールサイズで体を冷やし、冷たい麺でお腹の中から体を冷やそうと「志な乃」に寄った。
のんびりとした風情の店です。メニューの種類がそれほどあるわけじゃなく、蕎麦にうどん。天ぷら、それからけんちん汁と自信をもって作れるものだけ選りすぐって提供してる。
中でもここの鍋焼きそばとけんちんそばは絶品で、けれどさすがに今日みたいな日にはどちらも熱い。6月の後半から3ヶ月間、つまり夏の間だけ限定で作られる「生のひやむぎ」があるはずだからとやってきてみる。

入り口脇のサンプルケースにはさすがにひやむぎのサンプルはなく、でも座って一言。
ひやむぎのご用意はありますかって聞きました。
そしたら厨房の中から「ひやむぎひとつ、頂戴しました!」って威勢のいい声。
ありました!

ちょっとぬるめのお煎茶に、薬味にそばだれ。徳利に並々、収まりやってきてその徳利を見ると小さな水滴がびっしり張り付き中まで冷たい。
分厚いタオルのおしぼりで汗を拭ってお茶を飲み、すっかり汗がひいた頃合いでひやむぎ到着。水を張った深鉢にゆらりゆらりと浮かんで漂う細い紐。明るい飴色をした麺は不揃い。手打ちで手切り…、うどんでもなし、そうめんでもなし。大葉の緑が彩り添える。

タレをそば猪口にとくとく注ぐ。色は薄くて、けれど出汁の香りは力強い。
水がはられた器に箸をいれ、そっと麺を泳がすと麺の下から氷が顔をのぞかせる。大きな塊のぶっかき氷が4個ほども浮かんでゆれて、カチンカチンを涼しい音を立てて食欲誘います。
スベスベした麺の表面。だから箸で持ち上げるのは難儀する。器の縁にそば猪口を寄せ器の縁をすべらしながらタレにいざなう。水は切れずに麺と一緒にタレの中に飛び込んできて、なのに味がキチッときまる。ここのそばだれの力強くて味にゆらぎがないこと、見事。そのまま飲んでも塩辛くなく、薄まってもなお旨味、風味が失せぬステキをこころおきなく生ひやむぎと一緒に味わう。

ツルンと唇やさしくなでて、そのまま喉の奥へと流れ込む。
噛まずそのまま味わえもする。
噛むとザクッと歯切れ、噛んでも決して粘らない。小麦の香りが強烈に口の中を満たして鼻から抜けていくさま、まさに「冷たい小麦」。ひやむぎです。
わさびに生姜、たっぷりの胡麻。白いネギに大葉に大根おろしと薬味は多彩。
ひやむぎをそば猪口にとり上にちょこんと薬味をのせてズルンとたぐると口に広がる辛味や香り。特にしょうがと胡麻がここのひやむぎの繊細な味にピッタリとあう。あっという間にお腹に収め、残ったツユを蕎麦湯で割る。ポッテリとした蕎麦の風味が豊かな蕎麦湯。ツユの温度が少々あがり、薄まることで不思議なことに出汁の風味が強くなる。昆布の甘みが中心で、あまり酸味を持たぬ汁。冷えたお腹がポッとやさしくあったまる。

 

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コメント

  1. 食欲

    なんと、生冷麦なるものがあるのですか! 地元がそうめんの揖保の糸で有名なところなので、子供の頃から冷麦はよく食べていましたが、生があるとは初めて知りました。揖保の糸はそうめんの中でも、本当に細くてその歯ごたえがおいしいのですが、たまに太目の冷麦が無性に食べたくなるのです。ちょっともっちりとしていて、やっぱりそうめんよりは食べ応えがあって、しょうがとの相性も抜群で。食べたいなー。
    それにしてもサカキさんにしては、かなり軽めのお食事でしたね。だんだん夏真っ盛りになってきます。夏バテされぬようご自愛くださいね。

    • サカキシンイチロウ

      食欲さん
      そうめんのタレと一体となって何十本もの細い麺があたかも一本の麺のようにふるまう感じ…、独特ですよね。大好き。
      でもあくまで一本一本が個別の存在感をもって口の中でちらかるひやむぎの食感は独特。手切りなので太さ、細さ、厚さが不揃いなのも口の中を騒々しくしてくれるのも食欲のないときにはありがたい存在です。
      急な暑さで少々食欲に戸惑いがでております。食欲さんもご自愛くださいね。

  2. mmm

    いつも楽しみに拝見しております。
    うだる様な暑さにそうめんばかり食べていますが、
    サカキさんが以前どこかのコラムに書かれていたそうめんのおいしい茹で方、
    確か表示時間よりすごーく長く茹でるような・・・
    試してみたいので覚えてましたら作り方を教えてていただけないでしょうか?

    • サカキシンイチロウ

      mmmさん
      そうめんを指定時間の倍、茹でるという調理方法ですね。
      大体そうめんは1分から1分半茹でるようにできてます。ですから2分から3分。そんなに茹でて大丈夫かしらとちょっと心配になりますが、そこは勇気を振り絞って。大きなお鍋にたっぷりのお湯。箸でさわらず沸騰するお湯の中で麺が泳いで舞うにまかせてやるのがコツです。
      時間がきたら氷水にうつしてやさしくもんでさまします。麺の芯の温度までがしっかり下がるようにやさしくもんで、冷めたら食べる。
      そうめんがとてもなめらかでもっちりとした食感になるのにビックリされると思います。
      ぜひ、ちょっと上等なそうめんを使ってください。それから薬味をたっぷりと。香りの強いネギよりも千切りにしたキュウリがおすすめ。キュウリもちょっとだけ茹で、氷水で〆るとパリパリでなくシャキシャキとした食感が持続します。

      • mmm

        サカキさん、
        まるで自分がそうめんを茹でてる姿を想像できるような丁寧な臨場感のある解説、とても参考になりました。
        ありがとうございます。

        千切りキュウリ共々さっそく今晩試してみます!
        楽しみすぎて早く仕事を終えて帰りたい。

        我が家のそうめんは宮城の白石温麺が定番ですが、
        揖保の糸かでも買ってみようかと思います。

        • サカキシンイチロウ

          mmmさん
          白石温麺!味噌汁にそのままいれて、茄子と一緒に炊くのが好きなんです。年に数回、白石蔵王の駅を使う出張があり、そのたび、お土産に買って帰るオキニイリです。

  3. Diana

    サカキさん

    2,3年前から1kg入り稲庭素麺の節麺が我が家の夏の定番。
    厚みのある節に合わせて、長めに茹でると口当たりが柔らかく、麺汁ともよく絡みます。

    食べながら、これがサカキさんが言ってた、指定時間の倍茹でた美味しさなんだな~と納得。
    茹ですぎると、溶けちゃうのでは?と思い込んでましたが、そんな柔なものではないのですね。

    もちろん、にゅう麺にしても美味しかったです。

    • サカキシンイチロウ

      Dianaさん
      上等な麺は長めに茹でても負けないんですよね。むしろできたばかりの頃を思い出したかのようになめらかになってくれる。
      今の季節。
      台所で茹でものをすることはなるべく控えたくなる暑さではありますけれど、麺を茹でるときだけは覚悟を決めて…、ですね。

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