渋谷の福田屋、茄子の蕎麦

朝、打ち合わせをしてそのまま渋谷で昼食にする。
渋谷という街の料理はほとんどポップカラーで原色料理。
味のメリハリがはっきりしていて、ガツンと食べた瞬間、お腹を重たくしてくれるものの宝庫。つまりファストフードやラーメン、アメリカ的なる料理の巣窟。
60手前のおじさんが心から「おいしい」としみじみ思える淡い色調の落ち着く料理は数少ない。

そういう料理をそれでも扱うお店がいくつか。そんな希少な店のひとつの「福田屋」に来る。蕎麦の店。しかも気取らぬ普通の蕎麦屋で、自前のビルの一階にセブンイレブン…、つまり大家さんでもあるからずっと鷹揚にやさしい店の営業をしてられるんでしょう。アリガタイ。

お店に到着したのがほぼ開店と同時の時間。
暖簾がまだ出ていないのに気づかずお店の中に入ると、ご主人、朝のまかない中。
ごめんなさい…、って言って一旦辞退しようと思ってんだけど、どうぞどうぞ…、とお店の中に招き入れていただき座る。
テキパキまかないの後片付けして、お茶にお水が早速並ぶ。
茹で釜のお湯も出汁もしっかり準備完了してございます…、と注文とって暖簾を抱えて颯爽とお店の外へと飛び出していく。

朝礼なんかで「お客様のためにできることを誠心誠意いたしましょう」…、なんてみんなで唱和しながら、その実際はマニュアル通りを貫いて平気なお店がたくさんある。

チェーンストアのほとんどは「約束を守りさえすれば」いいと思って「約束を拡大解釈」する勇気をもたなかったりするのです。生業店ならではのコト。この場所、この人、この商売でずっとやっていこうと誓った人たち、お店はこういう具合にやさしいモノ…、って思ったりする。いい気持ち。

そろそろ牡蠣の季節です。
牡蠣カレーそばがはじまってるかも…、と思いながら来る。
ゴロゴロ入った牡蠣で出汁が白濁しちゃう、牡蠣なんばんもいいかもなぁ…。
焼いた牡蠣を大根おろしとポン酢で味わうみぞれもおいしい。
はじまってればいいな…、と思って来るも残念。
牡蠣は11月に入ってからの提供になるんですよ…、と。
気が早かった。
大ぶりの太った牡蠣が安くならなきゃうちの牡蠣そば、牡蠣カレーそばはもったいなくてつくれないからと、なるほどその頃、またこなくちゃ。

ならばそろそろ終わりをむかえる夏のゴチソウ。冷たい茄子そばを作ってもらう。
今日は夏日で日差しもほどよい…、茄子もおいしくなる季節。絶好の茄子そば日和とたのんで待った。
続々お客様がやってきて、ニコニコしながら蕎麦を待つ。みんな笑顔のおじさんたちで、渋谷にいるのを忘れてしまえる。ゴキゲンな昼。
大きな丼にどっさり。丼を持ち上げると手にズッシリと重さを感じるボリューム感。

蕎麦屋にはそば一杯、せいろ一枚で腹一杯になれるお店と、おかわりすることが前提の店のふたつにわかれる。ここは前者の代表格。しかも普通のお店の大盛りくらいの分量があり、大盛りをたのむと優に2人前ほどの分量でくる。それこそ山盛り。サービス精神、あまりに旺盛。
その分量を飽きずにしっかりお腹におさめてニッコリできるおいしい蕎麦というのもウレシイ。
小ぶりながらも甘辛に揚げて煮付けた茄子は堂々、4個分。ひとつかみ分の大根おろしに削ったばかりの鰹節。刻んだ大葉が色合い添えて、コロンと下の膨らんだ丼いっぱいの冷たい蕎麦。どこから食べようと迷いながらもまず蕎麦、ズルリ。

ハリのあるしっかりとした麺線で、細いくせして口の中での存在感がかなり強烈。
噛むとざくっと歯切れてバッサリちらかり蕎麦の香りを吐き出す。
ズルンとすすると唇を細かく撫でてくすぐって、口のすみずみ、ひんやりさせる。
出汁は甘めで、醤油の風味が力強い。
ほんの少しの酸味が後口ひきしめて、そのままゴクゴク飲んでしまえるほどにやさしい。
そこに茄子の煮汁の辛味が混じる。油のコクが出汁の旨味を膨らます。
大根おろしと一緒に食べると、おろしの甘みがひきたち口をみずみずしくする。
大葉は香りさわやかで、擦った生姜をポトリと落とすと、冷たいものを食べているのにお腹がポッとあったまる。
一口ごとに味が次々、変わって来るのが面白く、にもかかわらず一体感があるのは出汁がおいしいからに違いない。

全部食べるとお腹いっぱい。それでも汁を一口、そしてまた一口と飲んでるうちに半分ほどもなくなっちゃった。お水を飲んで、お茶飲んで、気持ちかろやか…、店をでる。店の外にはしっかりのれんがかかっていました。さぁ、仕事。

 

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