新宿西口、鮨いしかわのカウンターにて

ひさしぶりにノースケジュールを思う存分たのしむ週末。新宿に出る。
寿司を食べようと、新宿駅の西口近く。エルタワーという超高層ビルの地下一階までやってくる。
近隣のサラリーマン向けの気軽な飲食店が多く集まる飲食フロア。平日の昼間はかなりのにぎわい見せて、けれどさすがに週末となるとランチ時でもひっそり静か。
新宿駅からつながるメインの入り口の反対側の一番奥…、となると周りは本当にひっそり。都心にあってまるで隠れ家。「鮨いしかわ」という店にくる。
東京の寿司のメッカは築地近くの銀座、新橋。そこから離れるに従って数が少なくなっていく。特に西へ西へと向かっていくと名店と呼ばれる店が途端に減ってしまうのですネ…、つまり築地の西側の新宿という街は寿司屋探しに苦労する街。

先日、この店にはじめてやってきてびっくりしました。
地下にしてのびやかな空間。
個室がいくつか。中にはお座敷の中にカウンターが設えれた貸し切り宴会がたのしげな部屋まであって、使い勝手がよさげなお店。
L字型の大きなカウンター。中に厨房。
しかも奥には壁で仕切られた仕込み場まであり、職人さんがキビキビカウンターの中で働く姿がとても凛々しく明るく勇ましい。
カウンターが見えるように配置されたテーブル席も気持ちよく、そのときはそのテーブル席でお決まり定食を作ってもらった。

感心しました。
ネタは上等、仕事は丁寧。今度はカウンターでお好みを…、と思ってそれで今日の今日。
麦わら細工で覆われたお櫃があったり、まな板の上にピカピカに磨かれた包丁。職人さんをほぼ独り占め…、って感じの距離の近さにニッコリ。今日のお通しは白魚で、生姜醤油と一緒に食べると軽い苦味でお腹が動く。

それにしてもカウンターのキレイなコト。
磨き上げられた白木の表面がスベスベなめらか。
当てた手のひらが吸い付くようで、お客様に見えぬところの仕事にウットリ。
カウンターの高さは低め。ゆったり体を預けることができる座り心地のよい椅子で、気持ち落ち着く。
貝を握ってもらいます。

カウンターで「貝をひと通りお願いします」と注文するときの高揚感。
今日はなんと9種類もが揃っていました。
最初に来たのが平貝。ザクッと歯切れて上品な旨みで口が満たされるオキニイリ。
細かく包丁を入れて松かさのように仕立てられたミル貝は、軽い渋みがなんともおいしく、昆布をなめてるみたいな味わい、ネットリ感がたのしい赤貝。

軽いアンモニア臭が特徴的な青柳は、クニュンとなめらか。鉄分を舌に感じる北寄貝、旨味の強いホタテと次々、いいリズムにて料理が揃う。「貝」というひとくくりでまとめるコトが不適当…、と感じるほどに食感、味わい、風味独特で貝ってスゴいって感心します。
中でもこりゃスゴい…、と思ったのが3種類。アワビに小柱、煮蛤。


まずアワビ。包丁の付け根をタンタン、随分丁寧に切り目を入れてるなぁ…、と思っていたら、やってきたアワビの上には見事な亀甲模様が浮かび上がってる。コリコリボリボリ、奥歯で壊れておいしい香りが鼻から抜けて、それがゆっくりとろけてシャリと混じってく。口の中がトロトロしてくる。
それから小柱。軍艦でくる。パリッと乾いた海苔の香りが貝の風味や旨味をひきたておいしくさせる。小柱ひとつひとつの粒が大きく、しかもサイズが揃っているのにまたウットリ。
ここまでの貝は続いて次々やってきて、ただひとつだけ。煮蛤は味が強いので最後にの方にお出ししますネ…、とそれで〆のちょっと前というタイミング。クチャっと潰れておいしい煮汁が口の中へとやってくる。噛めば噛むほど旨味が滲む。ゴチソウだなぁ…、って体もとろける。

それから寿司をあれやこれやと。
徐々にお店が忙しくなり、ほぼ満席という盛況ぶり。
ひとつひとつお願いしてたら大変そうで、メモ用紙をかり思いつくがままネタを書く。
マグロの赤身にコハダにサヨリ。
酢じめの鯖に白いか、シマアジ。

マグロの赤身はネットリとした肉感的な噛み心地。ひんやり舌に貼り付いて、ネットリとろける。強い旨味と軽い酸味は赤身ならでは。味わい深い。
コハダはムッチリ。
スベスベとしたサヨリの食感とスッパリとした歯切れ感。生姜醤油と一緒に食べると、サヨリ独特の匂いが引き立つ。なめらかな味。
鯖が新鮮だったからでしょう…、鯖そのものの味や風味をたのしんでと酢〆の具合は少々やさしく、脂の旨味が口に広がる。脂といえばシマアジのキレイでさっぱりした脂。シャリと一緒に綺麗さっぱり口からなくなる。またウットリ。
白イカは最初はコリッとハリある歯ざわり。それが噛んでるうちにどんどんやわらかくなり、甘みを出して消えていく。

柵取りしてたり、下ごしらえをしたネタもある。
けれど中には、注文してから皮を引き、キレイに切り出し寿司にする。
仕事を続ける手元の見事で、丁寧なコト。
しかもテキパキ、素早く寿司になっていくのに日本料理の粋を感じる。
考えてみればこれほどファストな料理はなくて、しかも新鮮。上等で、日本のファストフードはこんなに贅沢って誇らしいような気持ちになれる。

エビを茹でて握ってもらう。
活きた才巻。頭と尻尾をつけたまま茹でて、しばらく休ます。
まだ湯気がほかほかあがっているのを目の前で殻を剥いて包丁入れる。頭をのぞいてシャリをあわせて寿司にする。最後に尻尾の先をキレイに切りそろえ、どうぞと目の前。
キリッと姿のうつくしいこと。
細身に仕上がり、舌の上にストンとのっかる。エビはホカホカあったか。噛むとムチュンと肉感的。そしてエビの甘いこと。甘くて香り豊かでムッチリ、シャリと一緒に混じって消える。

〆の直前。穴子をたのんだ。これだけ2貫。ひとつは塩で、ひとつはツメで。脂ののった穴子が焼けて表面サクサク。噛むとジュワッと脂がにじんでシャリと一緒にとろけてきえる。塩の方には柚子の香りがアクセント。ここのツメは甘みよりも醤油のコクが強くて素材の持ち味おいしくしてくれる。

〆にトロを芯にした鉄火とカッパ。まずは鉄火がやってくる。海苔がパリッとちぎれてシャリとトロが口の中へとやってきて、トロがとろける。そのとろけることなんともなめらか、シャリと一緒になって口の中をクリーミーにする。いいトロの脂のおいしいコトにウットリ。海苔の風味で脂が一層おいしくなるのも鉄火のいいとこ。
同じ魚でも刺身と寿司ではまるで違った食べ物になる…、ってその代表が鉄火かも。
カッパのキュウリは千切りにしたのをタップリと、ギュッとシャリと海苔で巻く。シャキシャキとしたキュウリの食感、みずみずしさと緑の香りで口の中がスッキリとして今日のお昼のお腹に蓋する。いい店だなぁ…、と今日も思った。今度は夜のカウンター…。

 

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コメント

  1. みゆき

    初めまして。
    この記事の時、カウンターの反対側の端っこに
    いたモノです。
    いつも通される席と違うな〜と思っていたのですが、
    榊さんがいらっしゃったのですね。
    私もいしかわさんの鮨が好きで10年程通っております。
    白木のカウンターもよいですが、
    夜の畳席も落ち着くのでおすすめです。

    • サカキシンイチロウ

      みゆきさん
      なんという偶然。たまたま案内されたのがこの席。職人さんの仕事が目近にみえて、大きなカウンターの中にあってプライバシーを感じることができる抜群の環境。
      いつもの席を横取りしたみたいで、恐縮いたします。
      ここの寿司はいい寿司ですネ…、外連味がなく端正にして上等な寿司。これからずっと贔屓させていただこうと思っています。もしまたお目もじする機会がありましたら、是非、お声がけなど。コメントありがとうございます。

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