料理のおいしい集会場

宮城県と岩手県の県境。宮城県のほぼ最北端に位置する「金成」という町の、丘の中腹に「鉄兵衛」という店がある。
昨日、古川の町でお世話になった同じ名前の鉄兵衛の姉妹店。
飲食店としてはちょっと大変なロケーションにある。周りに家はほとんどなくて、店の直ぐ側を新幹線が走っているから商圏の半分が線路の向こうという、つまり人がほとんど住んでいないような場所なんですネ。
でも、全面の道路は通行量が結構あって、いわゆるドライブイン的立地。目立つことが必要で、それでいろんな工夫をしてる。
手作りの案山子が何体も、お店の前にいるのが名物。しかも季節、季節でその装いが変わったりする。今日はサンタクロース案山子が二体。「トナカイ急募」の求人ボードを持って立っていたりするのがオモシロイ。

ご主人が脱サラで20年近く前にはじめた商売です。
飲食店のことはまるでわからないから、それで古川の鉄兵衛さんちにお世話になって、修行ののちに開業した店。
一生懸命がんばって、商売として軌道に乗って地域の人にも贔屓してもらえるようになった。
その恩返しもあって先日、座敷の広間を増築、改装。舞台を作った。

ご主人のお孫さんが大衆演劇の劇団に入り役者を目指しているというのがひとつのきっかけ。こけら落としにはその劇団総出で舞台を盛り上げたという。
この店を含めて二軒。売上の規模は決して大きくはない。けれどこうして「身近な夢を叶えることができる」仕事が飲食店という仕事。小さくたって人をシアワセにすることができる店って素晴らしいなぁ…、とニッコリします。

お店の屋根に店の看板より大きく目立つ「金太郎劇場」の看板がたち、金太郎はお孫さんの舞台の名前。「孫バカですから」って笑うご主人の幸せそうなコト。舞台は思った以上にしっかりしていて、照明、音響設備も充実。裏には楽屋や、上手、下手を行ったり来たりできる通路が用意されていたりする。仮設の花道も用意されてて、カラオケ大会やお稽古ごとの発表会の予約が続々、入っているというのもなるほど、うなずける。
お菓子付きで近所の寄り合いにお貸ししたりすることもある。町の集会場のように使ってもらえるといい。料理がおいしい公民館が、この座敷の目指す姿かもしれないというのがなんとも自由でたのしい。

飲食店は人が集まることではじまるビジネス。
昔はおいしい料理を作りさえすれば人を集めるコトができた。
今では美味しい料理は当たり前。
だからみんな必死になって宣伝したり、売れる料理を作ろうとする。
でも、売りたい、売りたいと思えば思うほど、それを人は暑苦しいと思って敬遠してしまう。
場所と時間の使い方のヒントだけを提供すれば、お客様の方でその使い方を考えて売上を持ってきてくれるもの。
このお店のこれからは、もしかしたら飲食店の小さな未来かもしれないなぁ…、って思ったりする。

さて食事。
観劇弁当とでもいいますか…、弁当箱にぎっしり料理がならぶ贅沢。
それと一緒に鍋が用意されていて、食事と同時にカチッとガスの火をつける。しばらくすると湯気と一緒においしい味噌の匂いが漂ってくる。
蓋をあけるとこれがモツ鍋。九州のモツ鍋は牛モツを使って作るけれど、この界隈のモツ鍋は豚モツ使って炊き上げる。
キャベツにニラ、にんにくがタップリ入った味噌仕立て。豚モツは脂を丁寧に抜き、クニュクニュとした食感だけを残したものでなんとも旨い。
ちなみにお弁当に汁はつかない。つまりこのモツ鍋が汁代わりというたのしい提案。みんなでとりわけ、手渡しながら手からあったかさを感じて会話を盛り上げる。

お弁当箱の中の料理は多彩でたのしい。
ブリや野菜の煮付けは濃い味。分厚いしいたけ、ニンジン、大根。噛むとクチュっと潰れて口に煮汁が広がる。
揚げ出し豆腐にきのこあん。
マグロに甘エビ、サーモンと刺身が入ると贅沢感がいやおうなしにたかまっていく。
和食の店ではあるけれど、洋食が得意な調理人がいて、彼が作ったポテトグラタン。
薄切りのじゃがいもとホワイトソースを重ねてチーズで風味をつけた本格的な味が口の変化を作る。
茹でた牡蠣の酢の物にご飯は穴子と錦糸卵のまぶし飯。

とんかつがもともとメインのお店だからメインの料理はやはり揚げ物。ヒレかつ、エビフライに牡蠣フライ。鳥の唐揚げも入って千切りキャベツもみずみずしい。ほんのちょっとだけ甘い茶碗蒸しも地域の味で、お腹が満ちる。これでこのまま座敷にゴロンと横になり、寝られたりしたらどんなにステキだろう…、って思いもしました。おいしい勉強いたします。

 

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