尻毛の安兵衛、河豚三昧

岐阜の郊外に尻毛という街がある。
「しりげ」と書くけど「しっけ」と読んで、一年ほど前でしょうか、はじめてやってきたときにはおそらく二度と忘れないだろう…、って思った地名。
そこに「やすべい」という日本料理のお店があって、これがなかなかの実力派。今日は冬のゴチソウを…、とひさしぶりにやってきました。
まず前菜。炊いたおからと胡麻の豆腐、それにふぐの煮こごりがくる。しみじみおいしいゴチソウ揃い。次の料理への期待がふくらみお腹も動く。

やってきたのは「てっさ」です。
ほどよく熟成されたふぐの肉。ほどよき厚さに切り分けてネットリとした食感たのしむ趣向の仕上がり。
薄ぅく薄く切って味わう粋も良い。でもあまりに薄く切ると結局、ポン酢を食べてるような気になる。ほどよき厚さがあってこそ、ふぐの強い旨いが口に広がる感じにウットリできる。ネットリとした歯ざわりもよし。ネギをくるんで食べるとザクッと歯切れる感じがふぐの食感をひきたてる。

それからてっちり。とらふぐがキレイに解体されてパーツごとにキレイに並ぶ。白菜、水菜にしいたけ、くずきり、豆腐も並んで多彩な具材。
土鍋にお水、昆布を一枚。フツフツ沸騰したとこにふぐの唇、頭やヒレの周りの味が出やすいところをまず沈め、野菜を入れてコトコト煮込む。鉄分の強い身なのでしょう…、加熱する前のふぐはまるで生牡蠣みたいな匂いがしてくる。コトコト炊いてほどよいところで引き上げ食べる。
まずは最初にそのまま汁をズズッとすするとなんとおいしい。ペトっと唇同士が貼り付くような濃厚な味。大根おろしやもみじおろしをのっけてポン酢を注いで食べると、パクパクハフハフ、箸が止まらぬオゴチソウ。

炊き上げる途中にやってきたふぐの唐揚げ。
ふぐの食べ方の中で一番好きな唐揚げ。
数ある唐揚げの中でも一番好きな唐揚げがふぐの唐揚げ。
肉の部分はふっくら、しっとり。
骨に貼り付いた肉は前歯でこそげて食べて、骨までチュバチュバ、なめつつ食べる。
指にネットリ、ゼラチン質が貼り付いて、舐める指までオゴチソウ。
そんなゴチソウをたのしみながら、目の前で鍋を職人さんが仕上げてくれる。しかも女性の職人さんで、あまりに仕事が的確で会話がたのしく名刺をねだった。そしたら「女板前」という役職名に、インスタグラムのQRコードを記したかわいい名刺。時代なぁ…、って感心しました。オモシロイ。

鍋をキレイに食べあげて、〆をお願いというと一旦、鍋が厨房に下がってく。
しばらくおいてやってきたのがその土鍋。パッと蓋をあけると中には雑炊たっぷり。これがウットリするほどうつくしかった。
丁寧に炊いたご飯に玉子を注ぐ。注いで軽く混ぜ合わせ、あとは蓋して蒸らしたもので玉子に熱がしっかり入って仕上がっている。けれどトロトロ、玉子はなめらか。まるで鍋の中で仕上げた上等な卵かけご飯のような風貌、風合い。ポン酢をちょっと垂らして食べると、お腹もぽってり、満ちていく。
〆のデザートはほうじ茶プリン。上に散らしたそば粉が甘くて香ばしく、けれどせっかくのプリンのなめらかを邪魔したかなぁ…、って思いもしました。とは言えステキな夜のコト。明日のお肌がたのしみなりのオゴチソウ(笑)。

 

コメント

  1. いにしえ

    サカキさま、
    ワタクシの母校の高校がその辺りです。尻毛のそばには、又丸という地名もありまして、うら若き乙女には口に出せない地名の二つでございました。
    その辺りは忠節という地区でこれまた由縁のありそうな地名です。

    • サカキシンイチロウ

      いにしえさん
      なんと…、そうでらっしゃった!
      大学の友人が川崎の「下野毛」に住んでいて、住所を聞かれるたびに困っちゃうんだよ…、もう笑いをとるしかないよな、って言っていたのを思い出します。
      地名ならではの不思議な読み方をする漢字もあって、その不思議を共有するとなんだか仲間になれるような気持ちします。
      次に尻毛に行ったときには、いにしえさんを想うコトにいたします。

  2. いにしえ

    サカキさま、
    うーむ。尻毛と共に想われるとは。乙女成分が1%位は残っているのでフクザツでございます(笑)。
    安兵衛さん、今度実家に行ったら家族を誘って伺ってみようかしら。一家揃って食い道楽なので知っている可能性大です。

    • サカキシンイチロウ

      いにしえさん
      蕎麦が自慢のお店です。お昼に軽く日本料理を食べて蕎麦で〆るなんていうのも粋かもしれません。

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