何を約束するかで飲食店は天国と地獄

いきなりステーキが銀座の一号店を閉店したんだという。
家賃が高い場所だから相当売っても利益を出すのがむつかしい。そういう場所をわざわざ選んで創業したのは、当時、話題になってた「俺のフレンチ」が憎らしくってうらやましくて、それならペッパーランチでの経験を活かして立ち食いステーキを作ってやれ…、ってことだったから。
立ち食いだから安くできる。回転数も上がるから、小さな店でも成立すると、安く売ることに正当性をもたせた。
断じて「安売りステーキ」ではなく「ファストでクールなステーキレストラン」なんだと言い張って、アメリカにまで店を作って話題も作った。
ただ俺のレストランと決定的に違うのが、俺のレストランにはフランス料理の調理技術という魔法がかかっていたけれど、いきなりステーキは肉を焼くだけ。そこに魔法も神秘性も無い。

「原価のわからない商売」と「原価がもろわかりの商売」。
どちらが有利かと問うてみれば答えは明白。
そこで持ち出したのが「量り売り」という目新しさ。
…、だった。
その奇策も話題を作った。
けれどそれゆえ人手や提供時間がかかって自己矛盾に陥った。
今ではほぼ計り売りはないも同然。だから一番の特徴は「安さ」にならざるを得なかったんでしょう。ボクも昔は量り売りステーキをたのんでいつも注文よりもスゴく多めに切ってくれるのをからかったもの。
今では乱切りステーキばかり。当初のコンセプトをたのしんでいる…、という訳じゃない。今日も乱切りステーキ300g。鉄板がチンチン焼けてて肉がジュージュー。シズル感は家庭じゃたのしむことができないし、決してまずいわけじゃない。

いろんなパーツが混じってていろんな歯ごたえ、味わい、風味を楽しむことができるのもオモシロイ。
醤油にタバスコ、塩に胡椒にワサビに芥子。オリジナルソースも何種類か用意されているけれど、昔からある調味料がやっぱりおいしい。特に醤油とタバスコはどんな肉でもおいしくさせる。ご飯をのっけてスイートコーンと醤油をかけてこんがり焼いて食べるとそれ一番おいしかったりするんだけどネ…、それならペッパーランチで十分じゃないかと思う。
それにしても調子が良かったときには熱狂的なファンを中心ににぎわっていた。ブームを煽った食の専門家を名乗る人がたくさんいたけど、あの人たちは一体今は何に熱狂してるんだろう…、と思うとなんだか切なくなった。

ボクがいつもいく新宿二丁目のいきなりステーキの隣のビルにスターバックスが入ってる。
スターバックスコーヒーが正式な名前だけれど、コーヒー専門店とは誰も思ってないんじゃないかなぁ…。
少なくとも彼らがお客様にしてきた約束に占める「おいしいコーヒー」の割合は極めて少ない。
不思議なもので美味しいコーヒーを売り物にした途端に安売り競争に巻き込まれる。同じようにおいしいコーヒーの店が現れるとできる差別化は値段になるから。
スターバックスは最初から、コーヒーの味じゃなくて居心地の良さとか気の利いた一言だとかを売り物にした。それらは「原価のあってないもの」で、値段をつけることができない商品でもある。
スターバックスは値段を約束しなかった。いきなりステーキが一号店から「値段を約束しちゃった」ことの対局にある。長続きする商売とは、こういうことって思ったりする。今日はスティームアーモンドミルク。もうこうなったらコーヒー専門店でもなんでもないよね(笑)。

飲食店は何を約束するかで天国と地獄。くれぐれも値段を約束しちゃいけないんだ…、としみじみ思う。お勉強。

コメント

  1. カワノ

    「憎らしくってうらやましくて」、
    それでこの場所に出店したのですか。
    なんだかため息ですね。

    • サカキシンイチロウ

      カワノさん
      嫉妬心はときにすさまじいエネルギーを生み出すものなのです。
      ボクの父はそういう経営者の気持ちを熟知していたコンサルタントだったのかもしれないなぁ…、と思うことがあります。

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