二人と一匹

時節柄、遺灰をお届けすることは憚られ、ご遺族が受け取りに来られることも今の東京の状態を考えると安全でない。
かといっていつまでもボクの家でお預かり続けることも申し訳ない。
ご遺族の希望でお送りすることにあいなりました。
それにあわせて一緒に送る遺品の整理をしていたら彼が描いた絵が一枚。

彼とボク、そして一緒に飼ってたフェレット。二人と一匹。

ボクの顎髭に白いものがチラホラではじめてはいるけれど、ふたりともまだまだ若い。多分、15年くらい前の絵でしょう。
ボクも彼も生活が一番安定していた頃の絵だからでしょう。目が生き生きしていて命あふれる見事な一幅。
この絵を描き終えたとき、彼はこんなことを言ってた。

自分は長生きしたいわけじゃないんだ。
持病もあって、長生きできないかもしれないしなにより嫌なことをしてまで長生きしたいとは思わない。
好きなことをしてこの絵の通り「二人と一匹」で一緒に生活できるのならばそれでいいんだ。死んでも惜しくはないかもネ…、って。

この一匹はボクが彼と知り合ったときに、すでに彼の相棒だった。
フェレットの寿命は5年から10年と言われます。初代は知り合って2年後に逝き、それから二代目、三代目、四代目とほぼ途切れずボクらは二人と一匹でありつづけたのに、4年前に四代目がボクの腕の中で逝ってそれから、彼が五代目のことを言うことはなかった。
その頃から体の状態が悪かったんだろうなぁ…。結局、ボクがひとり残った。

いつも一緒にいてくれる人がいて、互いが互いを慈しみ合い日々を過ごせることはシアワセ。
ただそれとは違ったシアワセが実はあって、それは「好きで、続いて、食える」仕事に恵まれること。
仕事があるということは誰かから必要とされているということ。シアワセです。しかもそれが好きな仕事であればその仕事をしている自分を自分で好きになれる。好きなら続く。好きな上にそれで儲けることができればますます続く。生きているって実感を得ることが容易にできる。

彼が好きなことは絵を描くことで、でもそれでは食えなかった。彼にとっての絵がボクにとってのこのブログ。ゴキゲンに食べ、そのゴキゲンを共有することで飲食店を応援するというコトがボクの好きなこと。でもそれで稼げているわけじゃない。ただボクにはコンサルティングという仕事があってその仕事とブログがシームレスにつながっており、しかも仕事で稼げてた。羨ましいって彼はたまに言っていた。
ただコロナの影響を受け、この3ヶ月、仕事はない。
打ち合わせはあるけれどそれが売上に直結するかと言えばほぼそれはなく、しかも外食産業の環境が一変した。だからかつての仕事が果たして戻ってくるのかどうかもわからぬ状態。将来どうなるかわからぬ中で、ひたすら絵を描いていた彼と今のボクはほぼ同じ。

不安だったろうなぁ…、絵を描いているときだけその不安を直視しなくてすんでいたのかもしれないと思うと彼の絵の表情が違って見える。

友だちに手伝ってもらってキレイにお骨を梱包し、明日送るという昨日の夜は彼がずっと座って絵を描いたりテレビを見ていたソファに一晩、置いといた。
テレビは一晩つけっぱなし。
寝る前に彼が大好きだった「ガンバの大冒険」を一緒に観てたけど途中で辛くなって寝た。
お骨がなくなった跡にはピーナツのフィギュアを置いた。彼が死んで最初に掃除をしたときに、彼が座ってたソファの下から転がりだしてきたこれが、「ボクだよ」って言ってるみたいでそれで代わりに置くことにした。お供え物はミニノワール。ニッコリよろこんでいらっしゃる。

コメント

  1. よおぜふ

    2人と1匹(テツちゃんでしたっけ?)の、かけがえのない日々の暮らし、こころに沁みいりました。
    お引き渡し前の一夜のご様子、素敵な絵を拝見したからか、お幸せで濃密な空間が感じられました。
    私も今現在、2人と1匹です。
    ふと、いずれはどうなるか?考えることがあります。
    その時に襲ってくる悲しみが大きい程、愛情に満ちていた証なのかなぁと思っています。

    • サカキシンイチロウ

      よおぜふさん
      テツくん。初代がテツだったので4代目まで女の子がやってきてもテツって名前でした。
      テツがいなくなったあと、寝ているとテツが部屋の中を走り回るような音がするのに悩まされたことがありますが、やはり気配は残るものです。それをシアワセな気配と手放しで感じられる日が来ますようにと思いながら、毎日を過ごしております。

  2. 藤田ナリヒト

    榊さんのファンになってから 3ヶ月です。食べ物のおいしさを楽しく表現して、自分の口の中で音を立てているような錯覚を、毎日楽しみにしていました。そのあなたが悲しみを抱えながら毎日いたことを知り、思い出がこの人をもっと強くして.亡き人が生きていた時よりもこの先.榊さんの文章が明るくさらにウィットに富んだものになってくれればと祈念いたします。先に行った大切な方もきっといつも傍にいてあなたを見ていると思います。供養する事は思い出してあげることだと思います。おいしいものをいっぱい食べて元気になりましょう。

    • サカキシンイチロウ

      藤田ナリヒトさん
      メソメソしてたら彼が悲しむってわかっているんですけれど、やっぱりいろいろ考えて泣いちゃいます。
      それでもお腹がすく…、というのが生きているということなんだなぁとも思い、彼が食べたいだろうと思うものを食べてはまた泣いてます。ちょっとづつ元気になればいいと、あまり無理せずがんばろうと思います。

  3. TK

    I’ve been a huge fan of your blog for years. Please allow me to leave comments in English since they’re embarrassing.
    I’m deeply sorry you are experiencing the pain of a loss like this. I also envy the loving relationship you had with him. I was raised by an abusive mother and a father who couldn’t stop her. I accidentally married to a self-centered man who kept emotionally abused me. I’m currently separated and OK right now, but I often wonder what love is. I could never tell my real feelings to people who supposed to be the closest. I’m a middle-aged woman but afraid to say “I love you”. Isn’t it funny?
    It’s obvious what the two of you shared was truly something special. I know the days and months ahead will be a big adjustment, so please give yourself a lot of grace. Please take care of yourself.
    With sincere sympathy,
    TK

    • サカキシンイチロウ

      TKさん
      コメントありがとうございます。彼の思い出以外のすべてを無くしてしまったような喪失感に、どう生き残ればいいのかひたすら考える毎日です。
      あたたかいコメントをちょうだいできることが糧のひとつでもあり、ありがたいなぁ…、と思います。感謝です。

  4. Leocco

    いよいよ旅立ちですか。
    切ないですね。
    ピーナッツ君の朗らかさが、まるで田中氏のようです。

    二人と一匹の絵も、すごい素敵です。おつきあいされて10年経っている頃ですよね?
    そういう仲を四半世紀、温めつづける関係というのは、なかなかないことではないでしょうか。すごいことです。
    彼の気配に包まれている生活、どうぞしっかり・ゆっくり・着実に歩いてください。

    • サカキシンイチロウ

      Leoccoさん
      やっといろいろなことを思い出して、なつかしいと思うと同時にありがたいことだったなぁと感謝することができるようになりました。
      これから本格的な遺品整理をしながら、新しい生活に体と気持ちを慣らして行こうと思っています。

  5. けいたろう

    二人と一匹。。。

    寄り添い仲良く微笑んでいらっしゃる絵のように

    これからだって、お二人と一匹の生活は続き

    いつだってサカキさんを、
    やさしく見守り続けてくれること
    間違いなしです。

    「ガンバの冒険」 好きでした♪ 

    ♪ガンバ ガンバ ガンガンガンバ♪ 
    テーマソングだったでしょうか。

    それで思い出した

    東映映画 劇場アニメ

    「長靴をはいた猫」で

    ペロとピエールが歌った歌も思い出しました。

    ♪ ひとりで~は できないことも

    ふたりいれば なんでもない

    もしもぼくが 虹をつかんだら

    その虹をきみに 分けてあげよう♪

    楽しい時も 悲しい時も ホイホイ♪

    どんな時でも いっしょさいつも ポイポイ♪

    。。。

    はなれられない 友だちさ~♪ 。。。

    ネズミくんたちもチャーミングで大好きでした。

    歌ったら元気でました。
    ありがとうございました。

    サカキさん

    今日もよき一日を

    • サカキシンイチロウ

      けいたろうさん
      カラオケに行って調子がよくなるとアニメの主題子を歌ってました。かわいかったなぁ…。ボクにとってアニメのほとんどは田中くんに教えてもらってはじめて観たものだから、すべてが思い出。だからしばらくみれないなぁ…、って思いました。
      いつか笑顔でアニメを見返すことができるようになればいいなぁ…。

  6. タカハシケムヂ

    遅まきながら、お悔やみを申し上げます。
    私もこの10年の間に父と兄を相次いで亡くしましたが、
    遺しものの整理をしていく中で、二人の存在が
    心の中に収まっていくような気がしました。
    まだ定まらぬお気持ちもあるかと思いますが、
    どうか美味しいものを召し上がって気持ちを
    穏やかになさって下さい。

    ピーナツ君、昔テレビで放映していた「クレクレタコラ」に
    登場していた“チョンボ”ですね。
    勝手気ままなタコラの傍らに常にいる友だちで、
    時にはひどい目にも遭いますが、それでもタコラの
    そばを離れることなく楽しそうに遊んでいました。
    末永く大切になさって下さい。

    • サカキシンイチロウ

      タカハシケムヂさん
      そうでしたか…、クレクレタコラのチョンボくん。
      たまにカラオケでクレクレタコラの主題歌を歌ってました。なんだかいろいろ腑に落ちました。ありがとうございます。

  7. きょうちゃん

    サカキさんこんにちは
    お二人と一匹の絵を拝見して、なんだかいろいろな思いが伝わってきて、心揺さぶられ、久しぶりにコメント書きました。
    遅まきながらお悔やみ申し上げます。
    私も10年前に母を7年前に父を亡くしました。
    仕方ないと思っても、悔いや消化しきれない寂しさはあります。
    それでも、一緒にいて一緒にごはんを食べる、体験は
    沢山重ねてきたし、それだけでいいのかなとサカキさんのブログを読んで思いました。
    コロナで、本当に大切なことは何か、みんな気づきだしてる、外食というものの位置付けも今までとは変わる気もします。今はいろいろ大変だけど良い方向には向かってると思います。
    ラザニアのお話みたいに、美味しいごはんや何かに、パワーをもらい、それが循環していく社会になってほしいと切に願います。
    これからもブログ楽しみにしています。

  8. サカキシンイチロウ

    きょうちゃんさん
    生きていくということは食べること。
    何を食べてきたかということが、その人の人生を決めるんだ…、なんてよく言われますけれど、「誰と食べてきたか」ということこそが、その人の人生を雄弁に語ってくれるものなのだ…、としみじみ思い知るようになりました。
    一人で食べる料理は味気ないものです。自分のために作って自分だけで食べるということになかなか慣れず、それでも気持ちを振り絞って日々、大切に過ごすようにしています。
    ありがたいコメント、染み入ります。

  9. nt

    物凄く合点がいきました。節制して長生きするって言う選択をしたくなかったんだなって。二人がそんな風に理解しあえていたから後悔はないですね。きっと今までより近くに居ますね。

  10. サカキシンイチロウ

    ntさん
    でもやっぱり哀しいです。せめて60で暦を折り返すまで生きていてほしかったなぁ…、と欲張りなことを思ってしまします。

  11. あーた

    里帰りの諸々、お疲れ様でした。
    ホッともされたでしょうが、やはり哀しいですよね。
    10年以上前に母の納骨を済ませて1週間ほど経った頃、夕飯時に2歳の子どもが突然「ばあば寒いって」と言い出しました。
    母が眠る地で雪が降っていたのでした。
    孫に会いに来たんだなぁと。
    田中さんも、きっとサカキさんのおそばにいらっしゃることと思います。

    • サカキシンイチロウ

      あーたさん
      つながっている…、って感じるときってありますね。
      「息子が無事里帰りいたしました」と田中くんのおかぁさんから電話をちょうだいしたとき、逝く直前まで一緒にいることができたボクよりも、あまりに突然のことで悲しみを受け入れることがむつかしく、寂しがってらっしゃる方がいるんだと思い、胸が切なくなりました。

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