たらちゃんの優しい滋養。顎においしいサンドイッチ
やさしい滋養をもとめて東銀座の「たらちゃん」に来る。実は先日開催したイベントに参加していらっしゃったゴキゲンご夫妻が「たらちゃんに行ったんですよ」っておっしゃっていて、それで来たくてしょうがなくなっちゃった。
韓国の干し鱈のスープ、ブゴクの専門店。専門店にもいろいろある。とんかつ専門店や魚料理の専門店と、そのほとんどが調理法や食材が限定されてるという意味の専門店で、ところがここは1300円のブゴク定食があるだけという究極の専門店。
果たしてそれでやっていけるのかと大抵の人なら尻込みすることを勇敢にもやり、しかもまもなく創業3年。感心します。
食券を買って座るとコトリと水キムチ。コーン茶にチョッカラスッカラがグラスに入ってやってきて、スープの風味付けのためのオキアミの塩辛が配膳される。女性だけでやっている店。そしてずっと手を動かして料理の準備をしている様子にニッコリします。
まず水キムチ。
大根を発酵させた冷たいスープのような漬物。
キリッと酸っぱく、赤唐辛子の辛味と一緒にお腹が目覚める。
大きな鍋がいつくも置かれてそこではスープが炊かれてる。
湯気と一緒においしい香り。
店の空気がおいしい蒸気で潤っていて、ただいるだけで体の調子が整う感じ。
寸胴鍋で干し鱈、イリコ、大量の鰹節をコトコト炊いたスープを手鍋にとって沸かして溶いた卵を落として仕上げる。
大きな器にたっぷりのスープ。ふわふわの卵が漂いスープの表面がツヤツヤ光る。器をそっと動かすとスープと一緒に卵がタプンとゆったり揺れる。干し鱈のゼラチン質が溶け込んでいるからでしょう…、とろみを感じる濃厚スープ。
スッカラをスープに沈めて持ち上げると卵と一緒にほぐれた干し鱈がのっかってくる。スープを含んでかたまったフワフワ卵もぽってりなめらか、干し鱈は口の中でホロリとほぐれてどっしりとした旨みとおいしい香りと共に壊れて消えていく。
軽い渋みと香ばしさを感じるスープと一緒にご飯を口に含むとご飯までもがスベスベしてくる。
白菜やニラのキムチが供されて、スープに入れると酸味や辛味が混じって味わい華やかになっていく。具材の種類はそれほどはなく、なのに味は複雑。一口ごとに体の中を滋養が巡っていきわたる。そんな感じのオゴチソウ。お腹の中から汗をかきつつ気持ちも満ちる。オキニイリ。
お昼になって、なぜだか無性にサンドイッチが食べたくなった。
顎にガツンとくるような噛みごたえのあるサンドイッチはないものかしら…、とディーンアンドデルーカにやってきてみる。
デリが充実した店で、ショーケースの中にサンドイッチが豊富に並んでました。
クロワッサンとプロシュートのサンドイッチも肉感的でおいしげで、けれど今日の気分は顎のゴチソウ。
コットハムとブリーチーズのバゲットサンドがそういう気分にピッタリで、それを選んで「ここで食べていきます」という。
そしたらお店の人が「一緒にお野菜などいかがですか?」というではないの。
ケールとキヌアのサラダがおいしげで、それも注文。お皿を秤の上にのせサラダを盛り付けてグラム単位で値段が決まる。
「このくらいでいいですか」「もうふたつまみほど余分にください」なんてやり取りがとてもたのしい。80グラムちょっとでお願い。するとサンドイッチは焼きましょうか?と聞いてくる。焼いてくださいというと「チーズは溶かしてもいいですか」と再び聞いてくれるんですネ。
溶かしてもいいと答えればそのままオーブンに入れるのでしょう。溶かさずにいえばチーズを取り出し焼いてからチーズを戻して提供するに違いない。そこまで聞いてくれるお店はレストランでもそうそうなくて、いいなと思う。
溶かしてくださいとお願いし、お供にアイスラテをもらった。飲み物はセルフ、料理は運ばれやってくる。
ブリーチーズがほどよく溶けてツヤツヤしていて香りもおいしい。サンドイッチペーパーでサラダとサンドイッチは仕切られていて、このサラダがおいしかった。モサモサしたケールの食感にキヌアがプチプチ混じって口が騒々しくなる。ドレッシングは油とお酢と塩とシンプル。変な風味がしないから素材の持ち味を心置きなくたのしめる。
サンドイッチもいい状態です。ガッシリ硬くてそっけないほど素直な味のバゲットにとろけたチーズ、たっぷりのハム。マスタードがパンに薄く塗られてて酸味や辛味、軽い渋みで味が見事に整っている。
食べすすめるとハムがベロンを舌出すようにはみ出して、その贅沢にうっとりします。オキニイリ。