そばうさの蕎麦に蕎麦の未来を考える

打ち合わせを終え、たまたま場所が半蔵門というエリア。気になっていた店を探した。
「そばうさ」という日本蕎麦の新店で、とても独特というので人気。事前に住所を調べてGoogleMapをたよりに歩いて探したのだけど、これがなかなか見つからない。ココにあるはずというワンブロックをぐるぐる何度か回ってやっと気づいた場所が、ビルとビルの間の路地。
表通りに面して入り口があるのでなくて、路地の奥。その路地の入り口部分に営業中はメニューボードが置かれてて、それでやっと気づく程度。探した時間が営業前で、それで気づかず迷った次第。

お店の表は蕎麦屋に見えぬ洋風仕様。
白いペンキで塗られたファサド。中に入ってカウンターがあり、そのカウンターもカフェとかバルとかみたいな感じ。
ただ客席は典型的な立喰蕎麦屋で、白い壁にモダンアートの美術書が飾ってあるのが、うちは普通の蕎麦屋じゃないから…、ってほどよいアピール。

蕎麦屋なのに蕎麦屋に見える風情もユニーク。
それに輪をかけメニューはかなりユニークで、最近、店を増やしてる「港屋」リスペクト系。つけ麺的なるつけそばが2種。
ひとつは牛すじ肉を煮込んでどっさり。胡麻とラー油を浮かべたつけダレで食べる、まさに「港屋」的なつけそばで、もう一種類はバジルソースを加えたタレで味わうというモノ。
どちらも熱いの、冷たいのと用意されてて今日は冷たいバジルそばにする。
注文を受けてから茹で、冷水でしめひとつひとつ丁寧に作っていくからちょっと待ちます。立ったままで待つというのが、おいしいモノにありつくための準備運動のようでちょっとワクワクします。

茹でたり、〆たりとおいしい音と一緒にバジルの香りがしてくる。
目を閉じ香りだけを味わうと、イタリア料理のお店に来たような感じがするのがオモシロイ。
番号呼ばれて取りに行き、カウンターにつくまでずっと鼻をくすぐるバジルの香り。
見た目はかなり特徴的です。
丼2つ。
大きく深い丼には蕎麦、トッピング。
スクランブルエッグにベーコン、レモンに千切りレタスに煎った白ごま。蕎麦のトッピングと思えぬユニーク。
小さな器の方にはタレで、甘めのカエシの鰹節出汁。オリーブオイルにペーストにした松の実、バジルとこれにチーズをくわえればとても上等なジェノベゼソースになってくれそうなソースがタップリ、浮かんでる。
赤い梅干しみたいな物体はプチトマト。蕎麦は色黒。太めでひらたく、何もつけずに一口食べると噛みごたえがあり噛んでるうちにほどよく粘り、蕎麦の香りが鼻から抜ける。これまた上等な蕎麦であります。

本格的にタレにつけてズルリと食べる。タレにくぐらせすすりあげると、ソースをたっぷりたぐりよせ唇がオリーブオイルでひんやりしてくる。かなり強めの油感。けれど植物性の油だからサラッと軽くて、それに続いてやってくるバジルの風味が口の中でパッと明るく花開く。おどろくほどに力強い味。

蕎麦を食べる人口は減り続けている。
端正でおいしいけれど、満腹感と満足感に欠けるから。
特にラーメンの力強さや、うどんの腹持ちに比べると若い人たちにアピールする力が弱くてそれで、「港屋系」と呼ばれる蕎麦が誕生した。
ラーメンの力強さと蕎麦のたおやかが互いを引き立て、ファンを増やしているのだけれど、ココの蕎麦はそれをもう一歩深めた感じ。

蕎麦の食感のなめらかさ。ラーメンの力強さにくわえてパスタの華やかさがひとつになって口と気持ちを満たしてくれる。これはいいや…と感心します。
その特徴のせいなのでしょう…、開店と同時にボクは入店。お店の写真を撮り終えて料理ができる間のたった10分ほどでお店は満員。しかも見事に老若男女という様相。

タレと麺のバランス以外に、味や食感を変化させる工夫もたのしい。
例えばトッピングのスクランブルエッグ。ネットリとした食感が、ソースや麺とからんで麺が一瞬太くなったように感じる不思議。口の中にあるのはあくまで蕎麦のはず。ところがまるでうどんや生パスタのように玉子と一緒に振る舞う。
千切りレタスは白髪葱からあの独特の香りと辛味を除いた感じ。シャキシャキずっと口の中ではネギが壊れているようなおいしい錯覚があるのがたのしい。食べる辣油をのっけると、その部分だけが担々麺のような感じがしてきて、変幻自在に味わい変える。
かなりの量の蕎麦がお腹に収まります。ラーメンだったら多分途中で体に悪さを感じるところ、これは蕎麦…、と思うとすんなりお腹に入る。蕎麦湯を注ぐと出汁の香りが強くなり、あぁ、蕎麦だった!と再認識。こういう工夫が蕎麦の歴史を長持ちさせる。未来をちょっと味わった。

 

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コメント

  1. Eiko

    「特にラーメンの力強さや、うどんの腹持ちに比べると若い人たちにアピールする力が弱くて」!!そうなんですねぇ…確かに私が蕎麦に目覚めたのもここ10年くらいのことですが、糖質オフの時代で蕎麦ブームかと勝手に思い込んでました!
    ここ、変わり種過ぎるのと、分かりにくそうでチャレンジ気分が遠のいていましたが、サカキさんが蕎麦の未来を味わえたのなら!!ぜひ近々行ってみます!

    • サカキシンイチロウ

      Eikoさん
      ここまで挑戦しなくても良かったかもなぁ…、と思いながらも、キワモノではなくしっかり料理としてまとめ切っているところに、技量を感じました。
      しかも若い人たちが一生懸命料理を考え作ってる。
      次の一手をどううつんだろう…、と見守りたくなりました。

  2. koku

    蕎麦を食べる人口が減り続けているのは、単純に高騰し続けているからだと思います。
    一般人の金銭感覚で、蕎麦一枚に1000円はそう気軽に出せません。でもそのくらい出さないと、今はもう上質の蕎麦は食べられません。

    外で食べる蕎麦は立ち食いそばだけって人が本当に増えました。これは私も聞いた時にショックだったのですが、そもそも蕎麦の香りってよく解らない、という人も少なくないです。若い人ほど決して少数派ではないと思う。

    以前は庶民のファストフードだった江戸前寿司が敷居の高い店になり、庶民は回転寿司になった。
    おそらく蕎麦も、まったく同じ道を辿ると私は見ています。

    和食が無形世界遺産。なるほど・・・「もうすぐ滅びる」という意味では、確かにその通りなんでしょう。
    この商品のようなエキセントリックで若い感性が吉と出るか凶と出るかはわかりませんが、とりあえず私も時間を見つけて一度食べに行こうと思います。

    • サカキシンイチロウ

      kokuさん
      原料が高騰しているという点では、小麦も同じ。
      中でも蕎麦の原料の高等が目立ちはしますが、一枚1000円の蕎麦屋ばかりではありません。
      立喰蕎麦のような300円、400円でやっているお店も数がどんどん減っている。
      味覚の変化、味の嗜好の変化の方がもっと大きな理由でしょう。
      例えば、1000円を越えるスパゲティを食べる人はたくさんいる。なのに1000円の蕎麦では物足りないという。ラーメンも行列ができる店ではほとんど1000円前後。
      蕎麦だけが置いてけぼりという状態は、ここ5年ほどの大きな傾向。
      シニアの人たちであるとか、軽い食事をしたい人たちのコトを考えるともっと蕎麦屋が増えてもいいと思いますが、それも果たせず、つまり業界全体が変われぬさまを見ていると、じれったく感じます。
      そんな中にあって、こういうお店が一体これからどのように進化していくのか。見守りたいとも思います。

  3. koku

    日本人の味覚の変化・・・やはりそうですか。そうなんですよね、やっぱり。認めなくないけど、やっぱり出汁よりも脂が好きな民族になってきたんですよね・・・

    あとおそらくなのですが、榊さんがよくブログでも書かれておられる「とにかく安く、お腹いっぱいになる」こと。これが、お客さんのお店選びの指針、というより最重要事項になってきてるのが一番の要因かな、と自分も思っています。

    ラーメンは1000円出せばそれなりにトッピングが乗ってきますよね。なによりラーメンやパスタは脂が多い。なので満腹感も刺激されます。そして麺の量もすごく少ないってこともあまりない。

    オシャレな店のパスタだと量が少ないことも多いけど、主な客層がOLや有閑マダムをはじめとした女性ですから問題なく、またイタリアンの一種のオシャレ感にお金を出してるわけでもあるので、だから1000円出してもそう痛いと感じない。

    だけど蕎麦は、上記の全てにおいて、その対極にあるんですよね。
    一枚の蕎麦は、本当に蕎麦だけです。サッパリしていて、しかも量も少なくちょこんと乗っていることが多い。
    またイタリアンに比べると、やはり女性に対して付加価値を乗せるほどのアピール要素があるかというと・・・私はある意味、鄙びた蕎麦屋もオシャレだと思っているのですが(笑

    残るはシニア層で、人口比率も年々上がっている。だからパイは大きいと思うんですが、やはり目をそらしちゃいけない現実問題として、大半の方は歳を取るほど出かけるのが億劫になることが一つ。
    あとシニアの方たちは、世代的に自炊がそう苦にならない人たちで、しかも仕事を辞めている人が多いわけで時間はある、それに老後の心配を考えると、余裕がある人以外はそうそう外食にお金を使いません。

    総じて、全世代でどうしてもなかなか選択肢に入ってこないのではないかと思うんですよ。同じ理由で、うどんのお店も減ってきてますね。チェーン店が力業で潰してる側面も大きいですが、しかし小麦は蕎麦粉に比べるとやはり比較にならないくらい安く、またお腹もそこそこ太りますし脂とも比較的相性はいい。
    しかし蕎麦は・・・難しいですね。

    蕎麦屋が生き残るためには、イタリアンのような業界あげての女性を囲むストーリー付け高付加価値ブランディング、もうこれしかないのでしょうか。

    なので、榊さんが今回取り上げたこのお店は、蕎麦にラーメン(つけ麺)の汁=脂、つまり蕎麦に満腹感を付け足したお店であるとも言えるのかな、と思いました。
    ただ正直、ここまでするならそもそも蕎麦である必要はあるんだろうか、という素朴な疑問はどうしても出てきてしまうのですが。バジルの香りは全てを打ち消すくらい強いもので、まあ蕎麦の香りなんて微塵もないですよね多分・・・

    長文すみません。あまり楽しい内容ではないので削除してもらって構いません。

  4. サカキシンイチロウ

    kokuさん
    「これしかない」という究極の解決策はどこにもない。
    それが食の世界の大変なところであると同時に、たのしいところなんだろうと思います。
    このような悩ましい状況は蕎麦のみならず、ウナギも天ぷらも困り果ててる。
    安売りが得意なチェーンストアに市場が荒らされると同時に、食の嗜好の多様化のためにかつてのゴチソウが今のゴチソウではなくなっちゃうからなのでしょうね。
    50年前にはパスタはなかった。
    ハンバーグもフライドチキンも今のように一般的ではなくて、だからパイそのものが小さくなると同時に、そのパイを分け合う相手も増えてきている。
    なやましくはあるけれど、たくましく生き残るモノだけが本物。そう考えると、私たちはとてもシアワセな立ち位置でなやんでいるのかもしれません。

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